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吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

『Risk Management』23年5-6月号
2023-07-06

Risk Management

5-6月号

INDEX

契約に隠されている12の潜在的落とし穴

クリス・キーファー[*]


何をして、何をしないかに関する合意があり、それと引き換えに何か価値のあるものを与えられる場合、貴社は契約を結ぶことになる。多くの契約で用いられている難解な法律用語を最初に読んだときに、まったく理解しにくく感じる。そのため、何かが問題になるまで、これら契約の中に、貴社にとって重要な問題があることを知りえないことは、よくあることである。その時点で、貴社は、相手方の当事者に対して法的手段を持っているかもしれないし、不確かな結果の訴訟に何万ドルも費やすことになるかもしれない。そうではなく、契約に隠されている落とし穴をよく理解し明確にするために、事前に時間をかけるべきである。そして、前進する前に、先を見越して均衡を保つために、相手に取り組まなければならない。

最も単純な形式で契約を審査するプロセスでは、契約をよく読んで理解したうえで、以下のことを確認しなければならない。1)すべての必要な取引条件が確実に書かれていて、問題がないこと、2)契約署名後、貴社が確実に保護されるように、抜け穴や落とし穴を明確にして書かれていることである。こうして、全体としてこのプロセスが、貴社が締結した契約が両者にとっての公正さを保証するように設計されることになる。

残念なことに、通常弁護士が相手方の契約当事者に共感して契約書を作成することはないので、抜け穴を回避することには思いのほか用心しなければならない。むしろ逆に、彼らは主として顧客自身の利益を守るように設計された契約を準備するために雇われている。結局のところ、契約書には、法律用語で書かれた多くの常套句を盛り込んだ一方的な条項が含まれている可能性が高く、その結果、まったくもって公正でない取引関係となりうる。

以下のリストは、契約における12の重要なリスクと、注意すべき主要な落とし穴のいくつかを概説している。これは、徹底した契約の審査プロセスのための入り口であり、第三者や取引先との関係でのリスクを低減するのに役立つ

1.契約期間

必要以上あるいは明確でない契約期間については警戒すべきである。通常、契約は永久に継続するものではなく、契約の有効期限を規定する所定の位置に、明確に定義された期間が存在していることを確認することが重要である。多くの場合、更新条項が含まれており、これらの条項を理解し、免れる契約に不必要に縛られないようにしなければならない。

2.価格と数量

価格および/あるいは数量の条件は、明確であるか。提供される財・サービスの価格および数量を契約に明記することが重要である。契約当事者の一方の側は、他方の側からのチェックや承認がなければ、価格や数量を引き上げたり引き下げたりすることができない。さらに、契約条項が添付の付属書またはスケジュールに記載されている価格および数量を提示する場合、添付書類またはスケジュールは確実に存在することを確認する。それがない時には、必ず追加するべきである。

3.一方的な決定権

初めの2項目を受けて、当事者の一方が契約を一方的に解除したり、自動的に価格を引き上げたりすることが認められている場合がある。一方的な権限が存在する可能性のある契約には、他にも多くの部分があり、これらは、ビジネス関係において不必要なリスクを負うことを避けるために、即時に明確にされ、評価され、バランスを図るべきである。

4. 請求および支払

特に利息および支払遅延違約金が支払条項に含まれている場合、契約に「請求書の受領日」あるいは「請求書の日付からX日以内」の支払いが必要かどうかを確認するべきである。前者は支払期日がすぐに到来することを意味するので、買掛金部門が隔週あるいはその他の方法で支払いを行う場合、何かが起きる可能性がある。後者の場合は、貴社がコントロールできない理由で、期限が過ぎるまで請求書を実際に受領しない可能性があることを考慮しなければならない。この問題を解決するために、「請求書受領後X日以内」の用語を見直すことを検討すべきである。

5. 紛失のリスク

製品の購入者または供給者にとって、紛失のリスクは特に重要である。両方の当事者によって予期されている具体的な配送場所はどこか。運送中に誤った場所に移動した場合、コスト配分や商品の紛失リスクによって不意をつかれるかもしれないので注意しなければならない。紛失引当金のリスクは、標準的なベンダーまたは顧客条項の細則に隠れている可能性があるので、契約の審査プロセスの一部としてこれらが含まれているかを確認すべきである。

6.表明および瑕疵担保責任

契約相手の中の一部では、提供される製品またはサービスが適用される法律および業界基準を遵守するという確約の提供が求められることがある。ただし、契約に含まれる一方的あるいは過大な保証、表明および/または瑕疵担保責任には注意しなければならない。例えば、契約で貴社が100%の定時納品を保証することが求められているとしよう。もしそうならば、これはできないことだから、この条項を改訂するべきである。

7.監査および閲覧権

公開企業は特定の財務情報やその他の情報を開示する法的義務を負っているが、ほとんどの非公開企業には、そうした法令遵守要件がない。ただし、契約によっては、相手側が自由に監査および会計記録の定期的な監査を行い、施設の定期的な検査を行うことができるかもしれない。このような拡張的な権利を広げることに同意しない場合、必要に応じてこれらの権利を削除あるいは希釈することができる。

8.秘密保持

契約期間中、相手側に特定の企業の秘密情報を提供することがある。例えば、商品を提供する場合、何らかの保護なしに侵害される可能性のある特定の特許、商標、企業秘密、その他の保護可能な利益を有する可能性がある。しかし契約にかかる規定あるいは必要条件が含まれていない場合、あるいは、さらに悪い場合には、機密保持の必要条件が非相互であり、相手方の情報のみを保護する場合がある。貴社の秘密保持権が適切に保護されていることを確認すべきである。

9.保険要件

損害が発生した場合に事業を守るために、できれば保険に加入すべきである。これらの保険料は安くないので、事業上の理由で貴社が購入した同じ規模の保険を購入することになるかもしれない。貴社が署名した契約はより多くの保険を必要とするかもしれないし、最終的には取引関係に比べてコストが法外な規模になるかもしれない。義務負担を伴うあるいは不可能な保険条項には抵抗して、署名の前に必ず交渉すべきである。

10.補償

取引相手が契約上の義務を履行する際に何か悪いことをし、その結果、影響を受けた第三者が貴社を訴えることになったとしよう。相手方の当事者にそれを請求し、貴社が被ったすべての損失に対して補償されることを要求するといった衝動に貴社は駆られるとであろう。それは、貴社の契約が一方的な補償条件しか持っていないことが分かるまでである。つまり、貴社の不正行為に起因する第三者請求の範囲内で貴社が相手方の損失を支払わなければならないが、相手方はそのような義務を負わないのである。契約における補償義務は、相互に、かつ均衡のとれたものでなければならない。

11.損害の制限

貴社が顧客に再販売するための継続的な契約に基づき、供給業者から製品を購入し、それらの製品が何らかの原因で故障した場合、あるいは役に立たなくなった場合、顧客は貴社に対して賠償を求めるかもしれないし、取引を全面的に中止するかもしれない。貴社は、少なくともこれらの損失の一部につき、契約に基づき供給者に対して請求権をもつかもしれない。ただし契約における損害の制限条項は、供給側の全体的な問題を、その損失の補償の程度まで名目上の金額に制限することがある。保険金請求が発生する前に、契約上の当該条項を明確にして交渉すべきである。

12.紛争解決

訴訟を起こすことを目的として契約を結ぶ者はいない。しかし、事が起こって訴訟する必要がある場合には、どこで訴訟を起こさねばならないかを契約書に通常明記する。貴社は自社の利益にとって望ましくない、時差が3つも異なるかもしれない管轄区域で、相手の有利な地域で補償を求めなければならないという、不意をつかれることになるかもしれない。紛争解決条項は、訴訟に代わる調停や仲裁を含めて、契約のシナリオによって大きく異なる可能性がある。貴社の契約は、相手側が違反する可能性がある場合、貴社の希望と期待に合致するものでなければならない。

トピックス

法務リスク、リスク評価、リスクマネジメント


注意事項:本翻訳は“ 12 Potential Pitfalls Hiding in Your Contracts”, Risk Management, May/June,2023, pp.4-7  をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

クリス・キーファーは全社的なリスクに事前に取り組むことを支援する、予防法務実務のキーファー・ストラテジー法律事務所社長。

グリーンウォッシング訴訟のリスクを低減する

ラシュミ・デュベ[*]


ESG問題への関心の高まりの一環として、世界中の規制当局は、持続可能性に関して誇張、あるいは根拠のない主張(“グリーンウォッシング”として知られている)に注目している。消費者の判断を誤らせるような環境メッセージへの取り組みに重点が置かれる一方で、リスク専門家や取締役会(非業務執行取締役を含む)が利害関係者に対して考慮すべき問題は他にもある。組織にとって、欠陥のある戦略や誤解を招くような表現がもたらす結果は、もはや単なる評判上の脅威ではない。組織は競合他社、消費者、投資家、労働条件、人権、包括性と多様性、生活賃金、金融慣行やそれ以外の多くの懸念事項について、圧力団体からの潜在的な訴訟を含む、多様な問題群に対する幅広い利害関係者からの監視と訴訟の増加に対応するための計画を立てるべきである。

利害関係者は行動をとる

ここ数年、世界規模で規制当局による「グリーンウォッシング」の特定、制裁、防止に対する優先順位が上がり続けている。2022年12月、米国連邦取引委員会(FTC)は、すでに数百万ドル相当の罰金を科すために施行されて『環境主張立法』の基準とガイドラインの見直し・強化を開始した。

3月、欧州連合(EU)は環境に与える影響の評価基準を定め、企業に対して自社製品のグリーン主張を立証することを義務付ける新法を提案した。英国は競争市場庁(CMA)が、70ヶ国の消費者保護当局を代表する『消費者保護及び執行のための国際ネットワーク』(ICPEN:International Consumer Protection and Enforcement、アイスペン)と協力し、この分野での取り組みを大幅に強化している。

一方、規制が厳格化するにつれて、企業や市民、特別利益団体は、既存の法的枠組みを盾にしてESG認証に異議を申し立てている。最近、イタリアでは、ある企業が競合他社に対して「偽りのグリーン主張」は誤解を招く広告であると差し止め請求をしたため、本当に不正競争に該当するかを検討した事例があった。この事件で裁判所は、問題となっている主張は曖昧で検証が不可能であり、すべての販売およびマーケティングチャネルから直ちに削除する必要があると判断した。

個人レベルでは、ペルーの農家がNGOの支援を受けてドイツの電力会社を訴えた件について、注目されている。この訴訟では、ドイツ最大の電力会社が故意に大量の温室効果ガスを排出し、気候変動に悪影響を与えたため、農家の住む上流の山岳で氷河が溶けてもたらされる洪水リスクに対して被害を軽減する責任を負う必要があると主張している。このテスト事例は、裁判が驚くほど進展したことと、90以上の国際的な法管轄が、この裁判の中心となる基本的な迷惑条項規定を共有していることから、注目されている。

リスクへ取り組む

予見可能なリスクに対応しなかったり、根拠のないESGを主張したりすることは、規制措置や民事訴訟を通じて、企業に著しい風評被害や財務上のダメージをもたらす可能性があることは明らかである。また、利害関係者から「誤解を招くような過去の企業活動により損害を被った」と追及されるリスクが高まり、経営陣にとって大きな脅威となりつつある。

このようなコンプライアンスや法的課題に対する解決策は、あなたのビジネスが可能な限りあらゆる方面に配慮し、透明性があり、プラスの影響を与えるように尽力していることを示す、ESGのベストプラクティスを証明することである。以下は、検討すべき重要な分野である:

ESGの声明を見直し評価する。ESGについて組織が何を主張しているのか、その情報はどこでどのように提示されているのか、どのような根拠に基づいているのかを十分に理解することが重要である。この見直しはマーケティングや人事など、主要な利害関係者との接する部門で実施する必要がある。ESGに関連する全てのコミュニケーションは、リスクとコンプライアンスに関する研修を受けた者が見直し、推測の余地がある将来予測に関する記述には適切な注意書きが付されていることを確認する。この評価をサプライチェーンや配送パートナーにも拡大し、彼らの主張も監査する。
基準を設定する。ESGが企業の価値観や目的、戦略の中心としてではなく、コンプライアンス上の問題として管理されているケースが非常に多い。あらゆるレベルの従業員を巻き込み、現状がその通りかどうかを確認し、考慮されていない可能性のあるESG関連の問題を特定する。ESGがまだ完全に組み込まれていない場合は、ESGを事業の運営や文化にうまく統合するための計画を立て、この取り組みの成功を継続的に評価する仕組みを確立する。スキルや知識にギャップがある場合は、速やかに対処し、認識や教育の取り組みを定期的に見直し、急速に変化するESGの状況と整合性を保つようにする。
正式に報告・監視する。ESGガバナンスでは、立証責任は事業者にある。理想としてはESG委員会の管理下で、積極的な方針を維持することを確認する。ESGの問題が迅速に特定され、対応事項のなかの上位レベルで扱われるようなシステムを確立する。取締役会でのESGに関する議論を議事録に記載した上で、焦点と行動を文書化する。懸念やリスクをオープンに伝達することを奨励し、低減計画が策定され、その後の会議で更新されることを確実にする。

ESGのベストプラクティスは、規制当局による処罰、訴訟、風評被害を回避するためだけのものではない。取締役やリスクマネジャーは、ESGの精神に忠実で、急速に変化する社会的、政治的、経済的、環境的状況に適応するために十分な柔軟性を持つアプローチを確実に組み込み、維持する必要がある。

トピックス
新興リスク、環境リスク、ESG、規制、名声リスク


注意事項:本翻訳は“Mitigating the Risk of Greenwashing Claims”, Risk Management, May/June, 2023,pp.8-9をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
ラシュミ・デュベは国際的法律事務所グンナークックLLPのESG訴訟およびビジネスアドバイザー、英国取締役協会の政策・ガバナンス広報担当代表を務めている。

アマゾン訴訟は生体認証データリスクを浮き彫りにする

ピーター・A・ハルプリン、タエ・アンドリュース[*]


ニューヨーク市で起きたアマゾンが生体認証情報法(BII Law:Biometric Identifier Information Law)違反の疑いで提訴された最近の訴訟は、顧客の生体認証データを業務で使用する企業の、新たなリスクを浮き彫りにした。同様の法律が他の司法管轄区域で施行され始めると、多くの企業がこのような潜在する責任に直面することになる。リスク専門家にとって幸いなことは、このような訴訟に対する防御を提供し、関連する損害賠償または和解をカバーする可能性のあるさまざまな保険が存在することである。

ニューヨーク市生体認証法を理解する

ニューヨーク市の生体認証情報法は、顧客の生体認証情報を収集、保持、変換、保存または共有する商業施設に対し、すべての入り口付近に明確で目立つ標識を設置し、分かりやすい言葉で告知することにより、このような活動を開示することを義務付けている。ニューヨーク州法(NYC法)では、「生体認証情報」を商業施設、またはこれらの施設に代わって、個人を識別するために使われる生理学または生物学特徴として定義している。これには、網膜や虹彩のスキャン、指紋、声紋、手や顔の形状スキャン、その他あらゆる識別特性が含まれる。また、NYC法は商業施設が生体認証情報の交換から販売、リース、取引、共有またはその他の利益を得ることを禁じており、これは娯楽施設、小売店、レストラン、バー、その他の飲食施設にも適用される。

NYC法は、これを遵守しない商業施設に対して個人が自らのために訴訟を提起することを認めている。重要なのはNYC法には「救済」条項があり、訴訟提起の30日前に違反の申し立てを記載した書面通知を商業施設に提出することを、被害者に義務付けている。当該商業施設が30日以内に違反を是正し、その目的のために書面による確認を提供し、さらなる違反が発生しなかった場合、被害者は訴訟を起こすことができない。

NYC法では必要な「明確かつ目立つ」通知を提供しなかった場合、違反ごとに500ドルの損害賠償が認められている。生体認証情報の販売、リース、取引、有価物との交換、またはその他の取引から利益を得る場合、NYC法は500ドルの損害賠償を認めている。意図的または悪質な違反に対しては、NYC法は5,000ドルの損害賠償を認めている。NYC法はまた、勝訴した当事者は、合理的な弁護士費用および経費を回収することを許可している。

NYC法は、近年、さまざまな州や自治体で消費者の生体情報を保護するために制定された多数の法律に連なるものである。生体情報保護法を可決した他の州には、アーカンソー、カリフォルニア、コロラド、コネチカット、イリノイ、アイオワ、オレゴン、テキサス、ユタ、バージニア、ワシントンがある。インディアナ州は2026年にこれに続く。特にイリノイ州は、バイオメトリクス情報プライバシー法(BIPA:Biometric Information Privacy Act)を制定し、違反に対する私的訴因を明確にして、この分野をリードしてきた。これが、生体認証データを業務に利用する企業に対して膨大な訴訟が起きるきっかけとなった。

アマゾンGOに対する判例

NYC法に基づいて起こされた最初の訴訟は、生体認証データを利用する企業のリスクを示している。ペレス氏によるアマゾンへの訴えでは、原告はアマゾン社がアマゾンGO店(アマゾンによる完全無人のデジタル店舗)でジャスト・ウォークアウト技術を使用してニューヨーク州法に違反したと主張している。アマゾンGOの店舗では、顧客はレジで会計をしたり、商品をスキャンしたりすることなく、買いたい商品を持って店外に歩き出すことができる。アマゾンは後で商品の代金を請求する。

訴状では、アマゾン社が必要な明確かつ目立つところに標識を設置しないまま顧客の生体認証データを収集、これはニューヨーク州法に違反していると主張している。具体的には、アマゾン社が入店時に顧客の掌紋をスキャンし、また、身体の大きさや体型をスキャンしてアマゾンGO店舗内の居場所を追跡し、顧客が触れた商品を関連付けていると訴えている。

訴状はさらに、アマゾンがアマゾンGO店舗外で生体情報をクラウドサービスに送信し、どの顧客がどこに移動したか、どの商品を棚から取り出したか、棚に戻したかを判断するために、情報を変換、分析、適用していると主張している。さらに、原告は、アマゾンが顧客の生体情報を保持、保管しており、場合によっては、利益のためにこのデータを共有または販売していると主張している。

この訴訟では、アマゾンはニューヨーク州法の施行後約14ヶ月間、生体情報を利用していることを知らせる標識を掲示していなかったと主張している。3月中旬にアマゾンGOの1店舗にサインを掲示したが、「明確かつ目立つ」という要件を満たしていなかった。また訴状では、アマゾンがそのようなデータを収集していないと主張しているにもかかわらず、掌紋スキャナーを使用するかどうかにかかわらず、アマゾンGO店舗内での動きを追跡するために、すべての顧客の体のサイズと形状のスキャンを収集していると主張している。

この訴訟がもたらす金銭的影響は大きくなる可能性がある。原告は、数万人の顧客で構成される集団訴訟の認定を求めている。また、訴状では、顧客が必要な表示が示されていないニューヨーク市内にある9つのアマゾンGOに入るたびに、NYC法違反が発生していると主張している。原告が勝訴すれば、アマゾンの損害賠償額は天文学的な数字になる可能性がある。

BIPAに基づく最近の判決は、この懸念を補強するものである。この事件では、イリノイ州最高裁判所は、ホワイト・キャッスル社の従業員がシフトの出勤・退勤時に指紋をスキャンするたびに、個別のBIPA違反が発生すると判断した。約9,500人の現・元従業員による集団訴訟が認定された場合、ホワイト・キャッスル社は損害賠償総額が170億ドルを超えると推定している。

生体認証データを使用する事業者に対する保険の含意

生体認証データを使用する事業者は、NYC法や他の生体認証データ法に起因する請求およびその結果として生じる損害のため保険契約をすでに結んでいるかもしれない。2021年の判決で、イリノイ州最高裁判所は、インフォームド・コンセントを得ることなく指紋をスキャンしたとされる日焼けサロンに対して顧客が起こしたBIPA請求を、「企業総合賠償責任保険」(CGL:commercial general liability)が補償すると判断した。裁判所は、彼女の申し立てにある行為は、「人のプライバシーの権利を侵害する資料の口頭または書面による公表」に該当すると判断した。CGL保険が生体認証プライバシー請求を補償できることを確認したことで、実店舗を持つ多くの企業がCGL保険に加入していることから、この判決は幅広い影響を及ぼしている。

サイバー、取締役、役員、過失怠慢、雇用慣行責任、技術E&Oなど、その他の保険契約も生体認証やデータに関する訴訟を補償する可能性がある。

さらに生体認証データプライバシー法が各州でも施行され始める中、そのようなデータを使用する企業は、生体認証リスクを補償しうる保険契約を評価することを最優先するべきである。

トピックス
サイバー、コンプライアンス、新興リスク、法的リスク、技術


注意事項:本翻訳は“Best Practices for Preparing a Business Interruption Claim ”, Risk Management, May/June,2023, pp.24-26  をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
タイラー・レンチはジョーンズ・ウォーカー法律事務所訴訟実務グループ・パートナー、保険訴訟チームメンバー。
コバート・J・ゲアリーはジョーンズ・ウォーカー法律事務所訴訟実務グループ・パートナー、保険訴訟チーム共同リーダー。

事業中断請求を準備するためのベストプラクティス

タイラー・J・レンチ、コバート・J・ゲアリー[*]


今年の暴風雨の季節を乗り切る際、多くの企業が物的損害を経験し、同時に事業収入の損失を伴う会社が出てくるであろう。多くの企業総合賠償責任保険は、財産補償の補助として、事業の中断補償や臨時費用保険金を提供する。しかし、事業中断請求の複雑さは、運転資金の差し迫った必要性と相まって、しばしば、このような状況にある事業主にとっての困難なシナリオを作り出す場合が多い。

事業中断の保険金請求と補償適用範囲は非常に複雑なため、貴社の事業中断による被害額が正しく報告されていることを確認することが極めて重要である。これらの数値は事業が中断した場合の補償範囲の総額を決定するものであり、前年度の数値をそのまま引き継いでインフレ係数をかけるだけでは十分とは言えないかもしれない。

一般に、事業中断損失および特別費用損失は、そうした損失が「関連する事業」に対する損害、または避難命令などの民事当局からの命令など、補償対象物件に対する物理的な損失または損害その他の補償対象条件にかかわるとき補償される。とはいえ、補償対象外で発生した電力損失に対して補償が提供されるかどうかなど、保険契約には除外や制限があることもある。

今年損失を被った企業にとって、以下のベストプラクティスは、事業中断保険金請求プロセスを円滑にし、保険金回収を最大化するのに役立つ。

すべての物理的損害を徹底的に調査し、記録する

補償対象物に対する物理的な損害は、通常、事業中断補償を付保するための引き金となるイベントである。復旧工事を行う前には、徹底的な観察と写真撮影を行い、損傷を詳細に記録することである。損傷は素人目にはわからないほど大きい場合があるため、建築専門家や専門査定人が不可欠であることを念頭に置いておくことである。保険会社が、損害の一部がカバーされていないリスクに起因すると考える場合、熟練した独立的な専門家の必要性が高まる。

チームを招集する

事業中断請求は物的損害の請求よりも複雑で、より高度な法廷上の作業が必要となることが多い。この仕事は会計、法律、保険、建設など、それぞれ異なるスキルを持つ人たちでチームを構成することで、最善の対応が可能となる。こうした活動を指示、連絡、調整できるチームリーダーを選ぶべきである。また、貴社の事業を本当に理解している会計士も重要である。ブローカーは貴社の保険会社とすでに関係を築いているため、保険金請求が処理されるときには、ブローカーが最善の情報伝達手段となることがよくある。保険会社の言葉を話す保険査定人(または損害査定の経験を積んだ請負業者)は、保険会社の保険査定人に損害の程度を納得させるのに役立つ。保険金請求に応じて、保険コンサルタント、建築構造エンジニア、建築家などの追加の専門家が必要となる場合がある。

保険契約を知る

保険金の回収を最大化するためには、保険金請求の内容を保険証券に合わせることが重要である。提供される補償の形態、補償される場所、補償される損失原因、除外事項、損失計算の方法などに細心の注意を払う。自社の事業運営、補償での潜在的な問題点、回収のための最も強力な論拠を特定する。保険会社とのやりとりの前に、徹底した事前分析を実施する。補償に関する一貫性のない姿勢は、被保険者と保険会社の間の重要な関係を損なうことになる。

補償がないかのように振る舞う

修理、復旧、事業再開については、補償が存在しないものとして判断する。あなたには損失を軽減する義務があり、保険会社が損失を補填することを約束するまで、どの程度回収できるかは分からない。慎重な経営者は、補償内容に依存しない意思決定を求める。これは、損害発生直後では特に重要である。保険会社が保険金請求を調査し、補償範囲を早期に提示した後で、破損した屋根を取り替えるか、取り壊すか、それとも建て直すかといった、高額な修理に関する決定を保険会社と提携して行うことができる。

保険会社に貴社の事業について教える

貴社の事業を一番よく知っているのはあなたであり、保険会社にあなたの業務について教え、損失を適切な観点から説明することが、あなたの回収を最大化するのに役立つ。あなたの事業を理解していない人による観察は表面的なものになる可能性が高く、払い戻しが低くなる可能性がある。

保険会社に自社の現実を提示する

保険会社の質問に答え、保険会社の用紙に記入するだけで、損害賠償請求に臨んではならない。あなたやあなたの会計士が理解しているように、損失を提示する。失われた事業収入の予測も含め、損害を完全に文書化するように準備すると。完全なプレゼンテーションには、過年度の財務数値との比較や、季節変動、成長、価格設定、その他の傾向に基づく調整が必要となる。

保険会社と頻繁にコミュニケーションをとる

保険会社またはその保険査定人に、営業に必要な現金の必要性、不動産や設備の修理の必要性など、損害が引き起こした日常的な需要について情報を提供する。事業中断補償は一般的に、少なくとも「復旧期間」が終了するまで延長される。復旧期間とは、通常、基礎となる財産が修理または交換された場合、または、そのような修理や交換が合理的な努力をもって達成される時点である。保険によっては、「事業所得延長」補償を提供するものもあり、これは復旧期間終了後、事業が回復している間の一定期間、追加補償を提供するものである。復旧が可能な限り迅速であることが、被保険者と保険会社の双方にとって最善の利益となる。

付随的な補償に目を光らせる

事業中断損失に加え、補償の対象となるすべての費用を分類し、払い戻しのために提出する。これには、追加費用、迅速化費用、瓦礫撤去およびその他の追加補償に関連する損失が含まれるが、これらは保険契約によって異なる。

保険金請求を急がない

事業中断請求は時間がかかる。特に会計士が損失を文書化するのに時間がかかる。修理に数ヶ月を要する場合や、請求額を確実に見積もることができない場合など、請求額が完全に確定するまでに何ヶ月もかかることもある。その間、仮払金は被保険者に必要な現金を提供し、保険会社にとっては被保険者が損失を軽減することでリスク遭遇可能性を減らすことから、双方にメリットがある。調査の初期段階では保険金請求がどのよう展開するか判断することが不可能であるため、早期に和解することは被保険者の不利益になる可能性がある。

必要なときには強硬手段に出る覚悟を持つ

保険会社の保険金請求の取り扱いに異論を唱える場合は、率直に言うことである。保険会社に対して法的に課される期限や、遅延や不合理な対応に対して適用される可能性のある罰則を把握しておく。保険金請求が誤って処理されている場合は、礼儀正しく、しかし毅然とした態度で発言し、保険会社があなたの考えるとおりに対応しない場合は、より攻撃的な立場を取る用意をしておく。

目標は包括的な保険金請求であることを認識する

チームの最終的なアウトプットは、全くの部外者でも理解できる保険金請求である。また、万が一紛争に発展した場合、保険金請求提出は法廷でも通用するものでなければならない。

トピックス
事業中断、災害対策、災害復旧、保険、自然災害


注意事項:本翻訳は“Employer Obligations in Disaster Response ”, Risk Management, , March-April,2023, pp.26-29  をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
サリー・R・カレーは弁護士事務所ランバーガーカークのパートナー。雇用と商業訴訟の分野で業務を行っている。

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