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吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

『Risk Management』23年7-8月号
2023-08-30

Risk Management

7-8月号

RISK MANAGEMENT 7-8月号
INDEX

山火事と煙のリスクの軽減する

ジェニファー・ポスト[*]


カナダ森林火災センター(CIFFC)によると、カナダでは既に過去最悪の山火事シーズンとなっており、7月12日までに約3,800件の火災が発生し、既に2,300万エーカー以上が焼失した。カナダでは、現在も続いている災害が、ほぼすべての州に影響を及ぼしており、強制避難によって15万人以上の人々が退去しており、国全体の医療費の高騰、特に石油・ガス産業では事業に支障をきたしている。

それに加えて、火災から煙が6月の北米の広い枯れ草に広がり、都市の地平線を淡いオレンジ色に染め、カナダから米国南東部のコミュニティに有毒レベルの大気汚染を引き起こした。この1ヶ月の間に、トロント、ニューヨーク、シカゴといった都市の大気環境は、最悪であった。この健康に害を及ぼしうる大気は、休校や屋外スポーツ行事中止を余儀なくしただでなく、いくつかの空港からの航空便は視界不良のために欠航したり、遅延したりした。

専門家によると、今年の山火事シーズンは気候変動によって悪化したが、それはカナダの気温の上昇と地表乾燥化をもたらした。これによって、火災や煙は、それまで影響を受けていなかった地域や、そのような状況に適切に備えていない地域にまで広がった。カナダでの火災と米国東部の煙の問題は、ともに当面続くものと予想される。山火事の影響を受けた地域であるか、あるいは衝撃的なほど広大に煙の影響を受けた地域であるかに関わらず、リスクの専門家は山火事と煙に関わる安全計画を早急に策定、ないしは再検討すべきである。

山火事リスクを軽減する

カナダでの山火事が続き、米国でもコミュニティが山火事の影響を受けているので、北米全体わたる組織は自らのリスクを軽減するために、以下の措置を講じるべきである。

1. 物理的に職場を守る。専門家は、火災による直接的な被害から人と財産を守るために、事業所周囲に防御可能な空間的緩衝地帯を設置することを推奨する。その手順は、可燃物質を除去し、建物の周囲最小限30フィートの範囲内に植物を植えること、煙突から15フィート以内にある枝や灌木を除去すること、建物の壁から蔓植物を除去することなどである。草刈りを定期的に行い、落ち葉や枝を刈り取り、可燃性の低い植物に置き換えることなどによって、山火事の広がりを減らすことができる。さらに、事業者は、事業所内に消火器を設置し、従業員が消火器の使用方法について訓練を受けていることなどを確実に実施すべできある。

2. 保険契約を見直し更新する。山火事リスクに直面した場合、商業用不動産保険および事業中断保険を見直して、十分に補償されていることを確認することが重要である。保険金請求が生じた場合に備え、現場の設備、資産およびその他の資産の詳細な目録を準備し、請求が必要となった際の文書を用意しておかなければならない。必要ならば、危険に曝される実際の価値を反映させるために、補償限度額を引き上げる。現場の状況にかかわらず、常に確実にアクセス可能にしておくために、保険契約や保険会社の主要連絡先の記録は、現場以外の場所あるいはクラウド上で何らかの形態で保管しておく。そうすることで、保険会社に可能な限り速やかに保険金請求することができる。

3. 緊急時対応計画を作成する。山火事が施設を危険にさらす前に、適切に緊急時行動計画を策定していることを確認すべきである。すべての従業員は、計画に対応した訓練を受け、定期的にそれが実施されるべきである。その計画では、危機発生時の指揮命令系統を明確にし、緊急時の機能とそれを遂行する従業員を確実に明確にすべきである。

また、様々なシナリオに対する危機管理計画を策定すべきである。従業員の通勤が危険な状況で、安全かつ効果的に仕事場外で作業するために従業員が必要とすることについて指示するために、遠隔での作業方針を策定しなければならない。屋内退避を命じられた場合には、その計画は、従業員が集合する建物内の指定された安全区域を明確にしておくべきである。

避難が必要な場合、計画には、複数の出口や経路、近くの避難場所、あるいは従業員のための代替集合場所をリストアップしておくベきである。また、企業は、事業所から避難する可能性がある場合に備えて、マスク、非常食や水、応急手当キット、避難経路図、懐中電灯、携帯ラジオ、コンピュータのバックアップや重要ファイル用ハードドライブなど、緊急時に必要な物資の梱包リストを用意しておく。さらに、従業員の安全を確認し、重要な情報を共有するために、双方向のメッセージ・システムの利用などコミュニケーション戦略を確立し、テストしておくことも重要である。

煙のリスクを軽減する

重要な点は、山火事の煙が有害な化学物質や煤塵、炭化物、灰などの固形微粒子を含んでいるということである。この煙には2.5ミクロン以下の粒子が含まれており、眼や咽喉を刺激するおそれがあるため、特に有害である。吸いこむと呼吸障害を起こしたり、慢性の心疾患や肺疾患を悪化させたり、喘息発作、気管支炎、肺機能の低下、心不全を引き起こしたりする。以下の軽減策は、煙のリスクから従業員を守るのに役立つ。

1. 煙対策計画を作成する。米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)によれば、煙対策計画には以下のものを含めるべきである。

  • 予備のフィルターを備えた携帯用空気清浄機などの煙対策用品を購入する。
  • 空調制御(HVAC)システムの再循環フィルターのアップグレードし、HVACシステムのメンテナンスを実施する。
  • 窓を開ける代わりに、ファンで空気の流れを最適化する。
  • 必要に応じて、エアフィルターの状態を評価し、補助フィルターを追加する。
  • 建物の外壁、ドア、窓に耐候性を持たせる。
  • 空気清浄器またはサーモスタットのいずれかに空気質センサーを取り付け、有害なレベルの粒子状物質がないか室内空気質を監視する。
  • オフィスの他の場所と遮断する、一時的な清浄空気空間を作る。
  • 調理、喫煙、プリンター/複写機の使用など、人工的な微粒子発生源を削減する。

2. その地域や連邦政府のガイドラインに従う。悪辣な大気環境の扱い方について幅広い情報を提供するリソースは数多くあるが、自分の居住地にとって有用な情報を得るために、信頼できる地元なしは連邦政府の情報源を見つけるべきである。米国海洋大気庁環境情報サービス(NOAA)の火事・煙マップは、地域の煙状態の現状と予測を提供している。山火事の煙に関する方針および手順を策定する際は、該当する州の規制に必ず従うこと。もし自分の州が煙発生のガイドラインや規制を提供していない場合は、自分自身の政策を策定するための出発点となる可能性があるため、規制を定めている州を探すことを検討する。例えば、カリフォルニア州規制法は、企業に以下のことを義務付けている。

  • シフトごとに、大気の質を有害な粒子状物質のレベルによって定期的に監視する。
  • 全従業員が理解できるように、煙の危険性を周知する。
  • 大気の質が有害レベルに達した場合の人工呼吸器および使用方法を説明する。
  • 従業員に対し、山火事の煙による健康への影響、医療を受ける権利、大気の質に関する情報の入手方法、企業との双方向のコミュニケーション・システム、および企業が従業員を保護するために用いている方法などについて、強制的な研修や訓練を実施する。

3. 屋外労働者のニーズに対応する。大気の質が悪い場合は、可能であれば自宅で勤務するよう従業員に助言すべきである。しかし、そうした選択肢を持たない建設業のような業界では、企業は追加的な予防措置を講じる必要がある。屋外労働者については、労働安全衛生局は、屋外の空気の質を頻繁にモニタリングし、煙のない区域への作業の移転またはスケジュール変更を行い、身体活動、特に激しく負担の大きい作業の水準を低下させることを推奨している。企業はまた、労働者に対して煙のない場所での休憩を奨励し、適切な冷暖房空調(HVAC)システムや、可能な場合には高効率フィルターを用いて作業するための居住設備を従業員に提供すること、さらに国立労働安全衛生研究所が認可した呼吸用保護具を提供し、あるいはその使用を許可すべきである。

トピックス

気候変動、災害対策、災害復旧、環境リスク、健康・ウェルネス、人材、国際、自然災害、リスクマネジメント、安全


注意事項:本翻訳は“ Mitigating Wildfire and Smoke Risks ”, Risk Management, July/August,2023, pp.4-7 をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

ジェニファー・ポストは本誌編集者。

RMISツールの価値最大化に向けた6つのステップ

パトリック・オニール[*]


リスクの専門家は事業リスクを管理するために、ますます技術に依存するようになっている。それにもかかわらず、多くの人々は、現在のリスクマネジメント情報システム(RMIS)を十分には活用できていないと感じている。実際、レッドハンド・アドバイザーズ社の「2023年RMISレポート」が調査した1,000人を超えるリスクマネジメント担当者の半数以上が、RIMSによる分析の活用を「わずかに有効、あるいはそれ以上」と捉えている。費用、資源の不足やシステムの運用訓練や知識の欠如のために、依然としてほとんどが、RMISを十分に利用していない。

このギャップを埋めるためには、リスクマネージャーは、データの質とガバナンスの改善に注力し、熟練したデータアナリストを雇用して、ビッグデータ分析、人工知能、機械学習の導入を検討する必要がある。

以下では、リスク技術の利用を始めたばかりであるか、それともすでに数年間システムを導入しているかには関係なく、リスクマネジメントプロセスに高度な分析を活用してより良い結果を得るための6つの戦略を示す。

1.データ分析プロジェクトの目標と目的を定義する。自らの目標と目的を理解することで、価値をもたらす成果と努力を整合させることが可能になる。先進的な分析の活用が、目標の達成にどのように役立つかを判断して、逆算してプロセスを開始しなければならない。活用事例を概説し、必要に応じて最適な成果を生み出す特定のツールや機能を活用することもできるかもしれない。たとえば、自分のチームが、特にダッシュボードが有効であると判断したら、いくつかのツールは他のツールよりもかなり可視的になる。

2. 現在の技術の道具箱の内容を確認する。自分の持っているシステムは自分の目標を支援しているか。それとも、目標を達成するためにサードパーティのツールを追加で探す必要があるか。ベンダーが提供するさまざまなツールを稼働させて、それを特定のニーズに自動的に合致させるのは、簡単なプロセスではない。ソフトウェアは、その背後にある計画策定プロセスに合わせて効果を発揮するからである。

3.データが正確で明確であることを確かめる。データの質は、業界全体の課題である。表面的には、データが最新かつ正確に表示されるかもしれない。しかし、厳重に検査すると、コード表が自社のリスクに適していない場合や、傷害や事故の原因コードが期限切れの場合、あるいは活動レベルに対してあまりにも包括的な場合がある。例えば、ベンダーあるいはサードパーティのマネージャーからの標準リストを使用する場合、保険金請求の90%は、単一保険金請求のタイプとしてコード化されているかもしれない。というのも、業界特有のリストが存在しないからである。正しいデータを獲得するためには、業界固有のコードや個々の組織に固有のコードを持っていることが重要である。同様に、地方の洪水地帯やハリケーンの可能性に関する場所を分析しているが、その場所に対応する特定の地理コードがない場合には、不動産データは正確なものではなく、アウトプットは役に立たないだろう。

4. コードではなく、保険金請求に関する説明から有益なデータを取り出す。労働者が身体の複数の部位を負傷し、RMISの選択肢が「肩のけが」あるいは「複数のけが」のみの場合、必要なことを保険金請求チームに伝えることはできない。そうではなく、それぞれの保険金請求の下で重要な説明を「取り出す」ことができるかもしれない。例えば、肩や背部の損傷は組織にとって最も費用が高い。そのため、適切な治療と対応は、保険金請求にプラスの影響を与えるかもしれない。談話データを分析するもう1つの利点は、コード化されていない細部が保険金請求の解決策の中心となるかもしれないことである。例えば、労働者の共存罹患は、保険金請求の一部として捉えられないが、談話やコメントの中に見出すことができるかもしれない。

5.データ分析をビジネス・プロセスに統合する。質の高いRMISデータを入手するというハードルを乗り越えたとしても、多くのリスクマネジメントチームは、この情報を事業や業務全体の意思決定に活用するのではなく、依然として自己中心的なやり方で利用している。例えば、コストが高く、重大性が高い可能性のある保険金請求については、より早く旗を立てているだろうか。RMISがそうした保険金請求をすぐに調停者に伝えていれば、チームメンバーは負傷した従業員に迅速に接触することができるだろう。

同様に、RMISが自動的に詐欺の可能性のある保険金請求に旗を立てて、それを適切な調停者に伝えることができれば、チームは1週間後に回覧されるかもしれないレポートを待つことなく、迅速に行動することができる。RMIS分析とその結果をワークフローとプロセスに組み込みことは可能であり、圧縮された時間内でそのデータをすぐに使用することができる。

6.ビッグデータ分析、人工知能、機械学習をRMISに取り入れる。技術をベースとしたリスク・ツールとその機能は、わずか2年前からはるかに進んでいる。例えば、チャットGPTのようなAIをデータ分析プロセスに組み込むことができるようになったのは8カ月以内前のことである。高度な分析をリスク・プロセスに統合するには、一定の専門知識が必要である。そのため、そうした活動を支援できるチームメートを持つことが重要である。近年、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)モデルへの移行により、RMISベンダーがクラウド内のすべてに責任を負うのが一般的にとなったため、企業はIT部門をソフトウェア実行プロセスから切り離すことができるようになった。しかし、多くの企業は、現在、事業の業務全体にわたってSaaSアプリケーションをサポートするために、IT部門を元の場所に戻している。リスクマネジメントチームがこれを実現できていないのであれば、IT部門に貴重なパートナーを見つけることができるかもしれない。

RMISの能力は進化し続けており、リスクの専門家も企業の分析プロセスのテスト、評価、精緻化に積極的に関わってきた。そのためには、組織全体の部門や業務が関与して、自己中心的な仕事のやり方を打破し、導入されている技術ソリューションを最大限に活用する必要がある。また、ベンダーが自分のプラットフォームに追加する新しいツールやリソースを常に把握するために、ベンダーと協力する必要がある。技術的アプリケーションを継続的な改善プロセスに統合することで、RMISツールからの強力で持続可能な投資利益を獲得することができるだろう。

トピックス
保険金請求管理、全社的リスクマネジメント、損失管理、モデリング、プロジェクト管理、リスク評価、リスクマネジメント、戦略的リスクマネジメント、技術


注意事項:本翻訳は“6 Steps to Maximize the Value of RMIS Tools ”, Risk Management, July/August,2023, pp.10-11 をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
パトリック・オニールはレッドハンド・アドバイザーズ社の創設者兼社長。

厳しい経済情勢を乗り切る

アンバー・ジェイコックス、ナランダ・マティア[*]


パンデミックに起因するサプライチェーンの混乱から、長期にわたる低金利の突然の終焉に至るまで、現在の経済は歴史的に類例の少ない状況に直面している。このような激動の環境は、一部の企業にとって経営上の課題とリスクの増大につながった。企業も経済も強靭さを示し続けているが、さまざまな金融トレンドがさらなる試練を生むかもしれない。

総じて、すべての地域が金利上昇とインフレの圧力を感じている。ウクライナ戦争の経済的・地政学的影響が引き続き世界経済活動の重荷となっている。しかし、成長の鈍化とリスクの高まりにもかかわらず、若干の回復が進行しており、世界のインフレ率は2024年にはさらに低下すると予想されるが、パンデミック以前の水準を上回る状態が続く可能性が高い。COVID-19によるサプライチェーンの混乱の緩和と中国のCOVIDゼロ政策の停止は商業活動を支えており、こうした追い風が世界的景気回復を早め、成長を促進することが期待されている。

世界のインフレ率は低下傾向にあり、2023年後半にはさらに低下すると思われる。一般的に、世界中の食料品、輸送、エネルギーからの価格圧力は緩和している。労働市場は依然逼迫しているが、基調的な賃金・インフレ圧力は緩和の兆しを見せている。企業調査会社ダン・アンド・ブラッドストリートのグローバル・ビジネス・ランキングによると、東アジア・太平洋地域の企業は、今後1年間で操業不能、活動停止、休眠状態に陥るリスクが最も高く、最高リスクに分類される企業は50%を超える。これに対して、他の全地域の最高リスク分類は2%から4%にとどまっている。業種レベルのリスクは地域間でより一貫しており、サービス業と小売業が世界的に最も高いリスクを示している。

米国では、消費者物価は依然として、連邦準備制度理事会(FRB)が目標とする2%を上回るインフレ圧力の影響を受けている。しかし、6月の消費者物価指数は3%上昇し、5月の4%から低下し、年間インフレ率は2021年第3四半期以来の低水準となった。現時点では、フェデラルファンド・レートがより大きな課題となっている。5月初旬の直近の利上げ後、この基準金利は2022年3月にほぼゼロであったのに対し、5%から5.25%と16年ぶりの高水準にある。FRB幹部は、15ヵ月間で10回連続の利上げを行った後、6月に金利を据え置いたが、今年後半のさらなる利上げを排除していない。

ある種の経済状況はビジネスにとってプラスの方向にあるものの、他の要因も今後数ヶ月のビジネス状況に影響を与えるだろう。

事業環境におけるトレンド

各国ごとの状況は、さまざまな産業をより大きなリスクにさらしている。例えば、北米では、米国の中堅銀行数行の破綻にみられるように、高金利が金融サービス部門や関連業界のリスクを高めている。金利とインフレが米国企業にとって依然として大きな頭痛の種であるため、金融機関は課題と機会を特定するために借入パターンを検討すべきである。

ダン・アンド・ブラッドストリートの中小企業の財務健全性に関する指標は、米国におけるCOVID-19からの中小企業の回復の初期段階を反映し、2022年初頭に大幅な改善をたどったが、最近では複雑なシグナルを示している。この指数はCOVID-19の最盛期に12年ぶりの低水準まで低下し、パンデミックの様々な変動を通じてほぼ横ばいで推移した。経済の健全性は2022年1月に大幅に改善したが、その後は40年間で最も高いインフレ率とFRBの金利引き締めによって抑制されている。

ダン・アンド・ブラッドストリートの中小企業健全性指数で前年比減少率が最も高かった業種は、金融サービス業、不動産業、小売業で、金利に関連する、あるいは個人消費に直接依存する業種である。米国の個人消費は、厳しい労働市場に支えられているものの、高値と金利上昇は消費者の選別をより厳しくしている。

中小企業の健全性が弱まるにつれ、米国企業の借入パターンにも影響が及んでいる。過去2年間、中小企業が開設した商業ローン口座数は驚異的に増加した。この成長は、企業が給与所得者保護プログラム(PPP)や、連邦政府、州当局、地方出先機関からのその他の無償支援金など、パンデミック救済を確保した企業によって支えられた。それ以来、開設口座数はパンデミック以前のレベルまで減少している。

新規口座の開設や新規事業の増加は小幅であるにもかかわらず、開設されたローン口座の負債残高の前年比の伸びは、パンデミック前の基準よりもかなり大きいままである。これは、企業が既存口座からの借入額を増加させたことを意味する。同時に、商業用クレジットカード口座の伸びは、2021年の落ち込みの後、2022年後半に加速している。これに伴い、借入額も増加している。

本質的に、企業は高価格が収益に与える影響を感じ始め、大規模な支払いや一時的な設備投資ではなく、より小さく日常的な支出に一般的に使われるローンや新規の商業クレジットカード口座を通じて借入を増加させている。借入金の増加と金利環境の上昇は、一般的に、ローンやクレジットカードの延滞を増加させる傾向がある。しかし、ダン・アンド・ブラッドストリート社の調査に基づくと、これはまだ実現されていない。さらに、強い雇用市場とパンデミックによる貯蓄が相まって、2022年第4半期には個人消費が小幅ながら増加した。こうした明るい兆しにもかかわらず、米国のビジネス・リスク見通しは、依然としてFRBの金利決定に依存することが続きそうである。

考察と提言

全体として、ダン・アンド・ブラッドストリート社の指標は短期的な改善傾向を示しているが、業種によっては他の業種よりも大きなストレスを経験するだろう。世界経済は引き続き独特のマクロ経済状況に直面しており、労働市場の厳しさが続いていることに加え、根本的な活力の兆しが少しずつ見えてきている。金融引き締めの影響はまだ明らかではないが、インフレの中核的な指標が冷え込み始めたことで、企業が若干の安心感を経験していることを示すシグナルかもしれない。

資金繰りの逼迫、資本調達可能性の低下、投入価格の上昇によって制約が増す中、企業が契約や取引に関する意思決定に影響を与える虚偽の陳述を行う、ビジネスID窃盗やビジネス虚偽表示のような形態の詐欺が増加する可能性が高い。実際、2023年第1四半期と2022年第1四半期を比較したところ、ダン・アンド・ブラッドストリートは、米国、英国、カナダ、アイルランドで虚偽記載による不正行為が33%増加したことを確認した。米国だけで、虚偽表示は19%増加した2023年後半にはインフレ率が低下する可能性があるものの、米国経済は当面、不安定な状況が続くだろう。企業、消費者、政府という経済の3つの原動力はいずれも、成長の妨げとなっている逆風に直面している。フェデラルファンド金利は2007年以降の金利よりも高水準を維持している。借入はより割高になっており、これがGDPに占める民間国内総投資が2023年第1四半期に12.5%減少した理由かもしれない。銀行危機以降、信用状況の引き締めが続いているため、こうした傾向は今後も続くだろう。

キャッシュフローの逼迫、資本調達可能性の低下、投入価格の上昇によって制約が増す中、企業が契約や取引に関する意思決定に影響を与える虚偽の陳述を行う、ビジネスID窃盗やビジネス虚偽表示のような形態の詐欺が増加する可能性が高い。実際、2023年第1四半期と2022年第1四半期を比較したところ、ダン・アンド・ブラッドストリート社は、米国、英国、カナダ、アイルランドで虚偽記載による不正行為が33%増加したことを確認した。米国だけで、企業の虚偽表示は19%増加した。

米国経済は、今後数四半期に様々なリスクがどのように軽減されるかにもよるが、経済成長が冷え込んだ不安定な時期に向かっていると思われる。そのため、2023年後半には、企業はこの厳しい経済情勢をどのように乗り切るかを綿密に注視していく必要がある。企業は短期的な考察にとどまらず、長期的な計画に焦点を当てなければならない。財務、金融、リスクマネジメントのリーダー向けの以下のベストプラクティスは、組織がこのダイナミックな情勢に伴う短期的・長期的な不確実性を乗り切るのに役立つだろう:

  1. 自社の出発点とエコシステムを理解する。事業の財務的健全性、およびベンダーやサプライヤーの健全性を評価するために、事業全体を見渡す。財務リスクや事業運営上のリスクを必ず理解すること。さらに、顧客、見込み客、サプライヤーに対する組織の義務やつながりを理解し、さらなる混乱に直面しても、必要に応じて業務を迅速に縮小したり変更したりできるようにする。
  2. 準備する。積極的にリスクを特定し、緩和策や代替案を策定する。例えば、新たな業務や取り組みを引き受けるに足るだけの安定した事業運営ができているかどうかを検討する。明確に準備しなければ、容易にビジネスチャンスを逃したり、ビジネス・リスクの増大を見逃したりすることになる。
  3. 集中力を維持する。経済情勢が不透明な時期には、予期せぬ出来事、規制要件の変化、企業方針の変更、破壊的なテクノロジーなどが自社のビジネスに与える潜在的な影響について、これまで以上に情報を得ておくことが重要になる。社内の業務と社外の出来事を継続的に監視することで、貴重な洞察を得ることができる。企業にとって、これは長期的な戦略計画に集中し続けることを意味する。
  4. 迅速さを保つ。変化に機敏でオープンであることは、強靭で機動性のあるビジネスを構築する上で、企業リーダーの最大の資産となり得る。例えば、港湾閉鎖のような予期せぬ事態は、サプライチェーン関連業務を方向転換させる機会にもなり得る。主要サプライヤーがこの種の予期せぬ出来事によって影響を受けた場合、影響を受けていない地域の代替サプライヤーを利用することを検討する。

リスクを常に認識し、それを早期に察知して軽減するために積極的な姿勢をとることで、企業はどのような事態が訪れても生き残ることができる最善の基盤を築くことができる。課題が増え続ける中、経営資源を強化し、貴社のリスク特性を適切に管理し、長期的な成功に向けて計画を立てることが肝要である。

トピックス
事業中断、経済、国際、リスク評価、戦略的リスクマネジメント


注意事項:本翻訳は“Navigating a Challenging Economic Landscape”, Risk Management, July/August,2023, pp. 24-28  をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
アンバー・ジェイコックスはダン・アンド・ブラッドストリート社データ科学担当上級副社長。
ナランダ・マティアは同社データ科学計量経済学担当上級取締役。

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