Risk Management
9月号
- COVID-19損害賠償請求に備える
- COVID-19危機の中でのコンプライアンスへの期待
- COVID-19責任は免責できるか
- サイバーセキュリティの社内脅威を予防する
- 倒産企業への保険補償範囲
- 法的調停成功のための8つのヒント
- 「世話する人」偏見に立ち向かう: 職場における女性へのCOVID-19の影響
- 学校再開
学校再開
ローリ・ウィドマー[*]
COVID-19のパンデミックにより、教育者やリスクの専門家は、生徒、教職員の安全と健康を守るために、学校の運営を再考することを余儀なくされた。
2020年3月には、COVID-19が全米に広がるにつれて、米国42州の知事が住民の移動を制限した。州が在宅命令を発令する以前から、大学は授業を中止し、キャンパスを閉鎖していた。COVID-19陽性の学生または教員の検査に反応した教員もいれば、潜在的な感染に先んじて動く教員もいた。
すぐに高校までの学校は教室を閉鎖し、授業を中止するか、オンラインでの授業に移行したりした。公立学校も私立学校も、インターネットへの信頼性の高いアクセスが全くないまま、生徒に連絡する別の方法を見つけなければならなかった。このような状況に直面するは、米国の教育者だけではない。ユネスコは、学校閉鎖が世界の生徒の60%に影響を及ぼし、100カ国以上がパンデミックで全国の学校を閉鎖していると報告している。
新学期が立ち上がり始めるにつれ、パンデミックが進行する中で、教育機関は生徒に教育やその他必要なサービスをどのように提供するかを決定する任務を担ってきた。行政と教育者は、短期的にせよ長期的にせよ、授業のために学校を開放するか、あるいは技術を強化してオンライン授業を実施するかを決定しなければならない。
各機関の決定がどうであれ、教育は昨年のようなものにはならないだろう。教室は現在、生徒、教職員の間でウイルスが広がる潜在的な媒介者となっており、キャンパスは将来の感染拡大の潜在的な中心地となっている。
また、現在の建物の中で生徒の安全に対応するために、何ができるかを考え直さなければならない教育機関もある。多くの人々は、物理的な距離を確保するなど、ベストプラクティスのガイドラインを満たすために必要な変更を行うために、インフラの限界、時代遅れの設備、資金不足に直面しなければならない。世界的なパンデミックを背景にして教育経験全体が見直され、再編されつつある中で、多くの不確実性が依然として存在している。
教育者や行政は、この非常に困難な環境の中で、生徒を授業に戻すための準備をしなければならなかった。科学の進歩、連邦政府の決定の変化、州と地方の相反する法令は、絶えず変化する状況を生み出しており、学校のリスク専門家は、計画を策定し、修正し、計画を破棄しなければ、進展を続けることができなかった。さらに、学校やキャンパスが再開されたとしても、急激な変化に備えなければならず、それは再び閉鎖しなければならないことを意味するかもしれない。
トリクルダウンの錯乱
学校が現在開校しているか、この後開校するかに関わらず、生徒が戻るための教室を用意することは、何よりも健康上のリスクを軽減することを意味する。行政やリスク専門家がキャンパス内での作業再開に取り組む時期、方法については、地域レベルで健康と安全に関する問題を考慮する必要がある。ユナイテッド・エデュケーターズのリスク管理カウンセラー、メラニー・ベネットは「公衆衛生当局や地方自治体、州政府が何を言っているかを見たいでしょう」と述べる。「学校の再開を勧めていますか。それが絶対的な出発点です」。
しかし、その質問に答えることさえ難しい。政治的な対立や優先事項の対立は、ほとんどの政府レベルで混乱をもたらしている。ジョージア州では、知事が最近、マスクの使用を義務付けたアトランタ幹部を提訴し、市職員はマスク使用の義務付けが州レベルの行政命令に違反していると主張した。アイオワ州では、市長が知事の命令に反し、パブリック・マスクの使用を義務付けた。パンデミックが全米住民に影響を及ぼしているにもかかわらず、一部の政治家は、こうした問題に党派的な議論も持ち込み、公衆衛生を政治劇に転換させている。
教育機関は健全な再開と安全計画を作ろうとしているが、政府レベルでの変化は急激で、しばしば矛盾している。サンタクララ大学のリスク管理・コンプライアンス担当理事サミュエル・フロリオは「事態は文字通り一夜にして変化する可能性がある」と述べた。「私が関与してきた他のリスク管理シナリオとは違う」。
これにより、多くの教育機関は計画を迅速に修正・変更せざるを得なくなった。「素早く対応できなければなりませんし、現在行っている意思決定は12時間で全く別のものになる可能性があることに気づかなければなりません」とフロリオは言う。例えば、トランプ政権は7月に、オンライン講座へ移行した大学に在籍する留学生など、対面授業に参加しない留学生のビザを取り消す計画を発表した。大学は、ビザの不確実性に直面している生徒をどのように支援するか、また、必要に応じてキャンパスに戻ることをどのように促進するかを考えなければならなかった。それから1週間もたたないうちに、政府はこれらの規制案の方針を覆した。
再開の準備
教室再開の合法性を判断した上で、いつそれが安全かを判断することが次のステップである。そのために必要となることは、各施設で異なる。パンデミックの進展は、最新の情報を網羅したリスク管理計画を作成することを極めて困難にしている。
まず、CDCのガイドラインに従い、全米知事協会などの団体から入手した情報をもとに始めるべきであると、デロイトの高等教育担当執行役員コール・クラークは助言する。彼は、教育機関は「条件や情報の変化に応じて、柔軟性があり、変更や修正が可能であり、キャンパスに戻るためのリスクに基づく一連のきっかけを含む」計画を策定することを提案する。
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コラム:学校再開に向けた、学校行政とっての主要考慮事項
疾病管理センター(CDC)は、生徒、教員、職員の学校再開に向けて向けて準備する、高等学校までの行政官が考慮すべき重要事項を、次のようにまとめている。
- 生徒、教員、職員が暮らす近隣地域・コミュニティでのCOVID-19の感染率
- 教室の中に留めさせる、校外で集合させる、特定の生徒たちを先生のもとに集めるなど、学校やコミュニティのニーズに応じた、集団を作る(事前に決定した期間で生徒たちをチーム編成する)方法。例えば、外も含めて未使用・未活用の校内空間は、教室を増設したり、社会的距離を保つために目的外使用できるか。
- 社会的距離、マスク、手洗い、チーム編成など、COVID-19感染拡大を予防するために現在実施されている諸方法
- 学校やコミュニティでCOVID-19 感染拡大を予防するために実施されている個人ができる予防行動について伝達、教育、強化するために学校やコミュニティがとれるベストプラクティス
- クラス内・クラス外活動でのCOVID-19 感染予防策の統合と、社会的距離を保てない活動への参加の制限
- 病人が発生したときの対応計画
- 陽性反応が出たときの、州および地域衛生当局との協力に基づく追跡計画策定作業
- 家庭での症状検査に関する、家庭への適切な伝達
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ギャラガー社の公共セクター業務担当上級執行役員ドロシー・ガードラムによれば、この計画はまた、いくつかの重要な疑問にも答えるべきである。「施設を準備し、物理的な距離を保ち、州の法律や地域の条例との整合性を保つために、何をするべきか。生徒たちをどのようにして復帰させ学校に戻すのか。学校に来たら、どうやってそれらから彼らの安全を確保するのか。また、必要な資材を提供するためにサプライチェーンに関する潜在的な問題を検討する必要もあります」。
学校が再開された場合、教育機関はプロセスの各段階を伝えなければならない。「学校がどのような政策に取り組むにせよ、すべての学校が、新しい政策や手続きについて、すべての人に訓練と教育を提供するようにしなければなりません」とベネットは言う。
これには、教師を訓練し、利用可能な指導方法について学生と親を教育することが含まれる。アリゾナ大学のリスク担当取締役スティーブン・C・ホランドは、同大学は4つの教育方法を計画していると述べた。レベル1は対面指導、レベル2は対面およびオンラインのハイブリッドであり、レベル3は同期(またはライブストリーミング)指導、レベル4は非同期(または録画)指導である。
ハイブリッドとオンラインでの対応は、教育機関にとって多くのロジスティック上の課題を生み出してきた。3月に最初の転換が必要になったとき、多くの教育機関はリアルタイムでインフラの欠陥を克服しなければならなかった。秋には視界が晴れ、準備が整うようになった。「夏の数カ月間、学校は春からの結果を評価することができ、秋の遠隔教育の潜在的な必要性を見越して、インフラをさらに改善することができました」とフロリオは言う。それには世界中の学生を支援することも含まれる。例えば、多くの大学では、同期学習モジュールと非同期学習モジュールを採用しており、異なるタイムゾーンの学生に講義を届けている。
大学キャンパスでは、学校はインターネットアクセスを改善し、サイバーセキュリティのためのインフラと手続きを強化する技術へ投資している。社会的距離の問題により利用可能な施設を制限しているキャンパスでは、図書館や学生組合内のエリアなど、人数制限を克服するためにインターネットアクセスを備えたより多くの空間を作り出している。「さらに、屋外での活動はウイルス伝播を緩和するため、多くの大学は屋外スペースで座席を改善し、一部は屋外での学習環境を作り出しています」とフロリオは言う。
このような措置は、校舎に戻ることを懸念する学生をある程度安心させるのに役立つかもしれない。8月に高等教育研究マーケティング会社シンプソンスカボローが発表した調査によると、復帰した大学生の25%が、COVID-19から自分たち守るために必要な予防措置を学校が講じることを強く望んでいる。新入生の3/4はCOVID-19感染を心配しており、復帰学生の34%しか寮で安全に暮らせると感じているに過ぎない。その結果、4年制の寮付きカレッジに興味を持つ新入生の40%が、秋には入学しない可能性が高く、また、戻ってきた学生の28%もキャンパスに戻らない可能性があると答えている。何百万人もの学生を教育し、企業としての学術機関の成功を確保するためには、安全上の懸念に対処することが不可欠である。
安全性の監視
より安全な学習環境を作り出すために、リスク管理者はすでに開発されたベストプラクティスを基礎にするべきである。まずは、収益、評判、コンプライアンスに対する脅威のような基本から始める。「教育機関がほんとうに成功するために役立つと思われるこうしたリスクテーマを特定することから始め、その次に戦略的目標に沿って前進させることである」とホランドは語った。
高校までの生徒がどのようにして学校に行くかという課題もある。物理的な社会的距離手順によって各バスで受け入れられる生徒数が減少する可能性が高いため、バス運行は変更を必要とされる。さらに、感染を最小限に抑えながら座席に着くために、生徒はマスクを着用し、後ろからバスに乗らなければならないかもしれない、とガードラムは述べた。
バスのスケジュールも変更しなければならない場合がある。例えば一部の地区では、少なくとも1週間のうちのどこで直接授業に出席できるよう、授業日を午前と午後に分けることを検討している、と同氏は述べた。これによって、迎えと送りを複数回で対応し人数制限を遵守し、送迎間の洗浄のための時間を許容するために、日中、より頻繁に走行する追加のバスが必要となる。
いったん学校に戻れば、生徒はできるだけ社会的距離を保つ必要がある。ガードラムは、1クラスの学生数を減らし、生徒を同じ部屋に居させることを推奨する。「そうすれば、グループ内の誰かが病気になった場合、そのグループを分離することができます」と述べた。
自発的な健康診断プロセスは、学生が病気になっているかどうかを判断するのに役立ち、ウイルスの拡散を抑えるのに役立つ可能性がある。アリゾナ大学ではWi-Fiアクセスの記録などの方法で学生を追跡できるアプリを使っていると、ホランドいう。オプトイン技術は、学生が陽性と判定された人に接触したことを迅速に通知することを可能にし、接触追跡とも呼ばれる。「もし私がCOVID陽性になれば、公衆衛生当局がデータベースにアクセスして、貴方が私と同じ時に同じレストランにいたことを連絡するのです」。「そうすれば、自分に症状があるかどうかを確認するために連絡を取ることができます」。
また、彼のキャンパスでは学生が、発熱などの症状に関する質問に答えるテキストベースの質問票を提供していて、学生の毎日の健康診断を支援している。この技術によって健康な人が学校に行かれるようになり、症状のある人に治療法の選択肢に関する情報を提供することを可能にしている、とホランドは述べる。
このような健康診断は有用ではあるが、確実なものではない。だからこそ、マスクの使用を義務付けるなど、保健ガイドラインに従うことが、キャンパスや教室での拡大を減らす上で極めて重要だと考えているとホランドは言う。彼の組織は、コンプライアンスを強制する権限を教授陣に与えている。「もし、マスクの着用を拒否した学生がいて、それを着用できない医学的根拠や身体的な理由がなければ、授業に参加できないことを伝える権限を持つ必要があります」と同氏は述べた。
ガイドラインの実施と健康チェックは、学校の中で最もリスクの高い層、すなわち教職員にとって特に重要である。学校は、従業員を支援し、彼らの安全を確保するために最善の仕事の仕組みを見つけるべきである。「彼らが快適でない、または職場に復帰できないと感じた場合、私たちは彼ら支援し、彼らがそのプロセスを乗り切る手助けしたいと考えています」とフロリオは言う。
多くの教育機関では、監督者が在宅勤務を許可されており、教員は最も理にかなった方法で教えることができるようになっている。中には、家族の人によってリスクが高くなるような状態になっている人もいる。再開の計画を立てる際には、リスク専門家はそのようなニーズを理解すべきであり、それぞれの行動方針から生じる可能性のある潜在的な障害を考慮すべきである。
ホランドによれば、学習がいかに安全に行われるかを再考することは、キャンパスを再び閉鎖しなければならない場合には特に重要である。閉鎖に関する決定を下すには、継続的なモニタリングが必要である。そのために、彼のチームは、地域社会におけるパンデミックの状況に基づいて、さまざまな対応手順をとることに取り組んでいる。「われわれは、新規感染者数のように、長期にわたって観察したい測定基準を特定している。陽性症状を報告した人がいる場合には、密接接触者を特定している。また、密接接触者の何%が症状を発症したり、最終的にCOVIDの検査が陽性になったりするのかを確認している」。これにより、必要に応じて手順やプロトコルを調整できるようなっている。
バランスについて
伝統的な教室での指導と、学生、教員、職員の健康と間でバランスをとる活動は、実際には、通常のリスク管理の実践からそんなには離れたものではない。クラークによると、強固な全社的リスク管理の慣行を採用している教育機関は、パンデミック特有の問題に対処するために最善の準備をしていることになっている。しかし、多すぎるほどの学校は、特に大学レベルでは、苦戦するであろう。多くの大学がERMに追いつかなくてはならず、その点でパンデミックに関連した問題に備えることに遅れが生じる可能性がある。「これは、高等教育のリスク管理者にとっては、本当に目覚める瞬間で、真の意味でのリスクに対する全社的アプローチを開発することの重要性が注目を集めた」と同氏は述べた。
そうした中、リスク管理者はパンデミック前と同じ仕事を実行しなければならない。そこでは、パンデミック関連の問題に対処するための監視チームを設置することが有益であろう。ベネットは、チームは、リスク管理と弁護士に加えて、保健サービス、住宅、施設、学務、コミュニケーション部門からの主要な参加者で構成すべきであると提案した。「そのチームの下には多くの作業を行うサブ・チームがありますが、その監督グループは、起こっていることをすべて監視する必要があります」と同氏は述べた。
新たな実践を成功させるためには、多様な教育機関のリスク専門家間でのコミュニケーションと情報共有が不可欠である。ベネットは「今年、リスク管理者は、必要となる資金と入ってくる情報量に圧倒されている」と述べた。「今年は、お互いに話し合い、ベストプラクティスについて話し合うことができればできるほど、大いに役に立つことになるであろう」。
注意事項:本翻訳は”Back to School”, Risk Magazine, September, 2020, pp.24-29 をRIMS日本支部が翻訳したものです。翻訳と原文に相違があるときには、原文を重視します。本文中は敬称略です。本文中は敬称略です。
フィラデルフィアに拠点を置く、リスク管理を専門とするフリーのライター。
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