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吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

【Web版】『Risk Management』25年6月号
2025-06-04

Risk Management

【Web特別版】

6月号

2025年5月-6月号Web特別版
INDEX

自動化とスマートシステムが法的な問題を引き起こすメカニズム

メレディス・ボバー・ストラウス(訳:鈴木英夫)[*]


 企業はソフトウェア、アルゴリズム、人工知能を活用し、請求処理や顧客サービスからデータ分析やマーケティングに至るまで、あらゆる業務を自動化している。これら自動化はあらゆる場所で活用されている。自動化は効率性、精度、大量処理を保証する一方で、必ずしもコンプライアンスを徹底しているわけではない。システムが適切に管理されていない場合、善意に基づいて自動化から始まったものが、あっという間に規制当局の介入、集団訴訟、そして深刻なレピュテーションの低下へとエスカレートする可能性がある。つまり、企業のソフトウェアが業務を自動化により実行した場合、企業は重大な法的責任を負わされる可能性もある。

データプライバシーの落とし穴

 プライバシーについてのコンプライアンスは、自動化を導入する企業にとって最も難しい分野の一つである。カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)、カリフォルニア州プライバシー権法(CPRA)、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)といった法規は、データ収集、通知、同意、オプトアウト権に関して厳格な要件を定めている。しかし、自動化によって目に見えないデータ・フローが生まれることも少なくない。多くのシステムは、ユーザーデータを取得し、マーケティング・プラットフォームと同期させ、再標的化エンジンや推奨エンジンを稼働させる。これらはすべて人間の介入なしに行われる。そこにリスクが潜んでいる。

 例えば2022年、カリフォルニア州司法長官は、セフォラ社が第三者によるデータ追跡に関する消費者のオプトアウトを尊重しなかったとして、同社に120万ドルを支払わせることとした。この問題は意図的なポリシー違反ではなかった。セフォラ社の自動広告インフラは、ユーザーのブラウザから送信されるグローバル・プライバシー制御信号(*)を認識または処理していなかった。
(*訳者注:グローバル・プライバシー制御信号(Global Privacy Control、GPC)とは、ウェブサイト訪問者が自身のプライバシー設定をウェブサイトに伝えるための信号。具体的には、ブラウザや拡張機能を通じて、「自分のデータを売買しないで」という信号を送信し、ウェブサイトへのデータ共有や販売の拒否を表明する仕組み。)

 すなわち、自動化システムは設計通りに機能する場合でも、必ずしも法律に準拠しているとは限らない。受動的データ収集やバックグラウンド・データ収集であっても、法的側面からの監視がなければ行政または司法措置の対象となる可能性がある。企業は、自動化されたプロセスが社内のマーケティング目標に沿っており、外部のプライバシー法に準拠していることを確実にする必要がある。

意図は問わない

 もう一つの課題は、自動化されたプロセスと頻繁に絡み合う消費者保護法である。カリフォルニア州不正競争防止法(UCL)や連邦取引委員会法など、最も影響力のある消費者保護法の中には、企業が不正行為を意図していたことを証明する必要のないものもある。意図ではなく、組織の行動の結果にのみ注目する。自動化の時代において、この区別は非常に重要である。

 例を挙げると、妊娠と月経周期を追跡するアプリ「Flo Health」は、ユーザーの機密性の高い健康データはプライバシーが保護されると公に保証していた。しかし実際には、同社の自動データ共有機能によって、個人データがFacebookやGoogleなどの第三者プラットフォームに分析やマーケティング目的で送信されていた。

 このデータ共有は、2021年にFTCによる調査と行政措置につながった。Flo Healthはやり方を変更することに同意し、独立したプライバシー審査を受けたが、その前に広報面での激しい批判に直面し、大きく信頼を失うことになった。 Flo Healthの幹部はユーザーのプライバシーを侵害する意図はなかったものの、自動化システムのプロセスによってプライバシーが侵害されたことで、法的に処分されるに至った。

 この例が示すように、自動化はリスクを排除できてはいない。むしろ、リスクを増幅させる可能性がある。1つのコードが人間の監視外で動作すれば、数千人、あるいは数百万人ものユーザーに瞬時に影響を与え、企業に責任を負わせる可能性があるのだ。

契約、アルゴリズム、そして破られた約束

 自動化は、契約、消費者の権利、そして受託者責任にも問題を引き起こす可能性がある。例えば、ダイナミック・プライシング、自動請求、AIを活用したカスタマーサービスは、たとえ自動化システムを導入する企業が、過剰請求、誤解、混乱を意図していなかったとしても、ユーザーの法的権利に影響を与える可能性がある。

 例えば、現在進行中の訴訟である「Spencer vs. Uber Technologies Inc」では、原告は、Uberによるアルゴリズム・プライシング(リアルタイムの需要に基づいて料金を調整するソフトウェア)の使用が不公正な商慣行に該当し、顧客に対する契約上の義務に違反する可能性があると主張している。

 Uberが勝訴するかどうかに拘わらず、この訴訟は深刻化する問題を浮き彫りにしている。裁判所は、自動化された行為が人間の意思決定に取って代わり、それに応じて判断されてしまうという主張をますます受け入れるようになってきている。

 企業のシステムが、人間の確認なしに自動的にキャンセル通知を送信したり、料金を改定したり、アカウント条件を変更したりした場合、意図せず契約違反に至ったり、消費者保護責任を問われる可能性がある。これらの行為によるリスクは極めて大きくなりうる。人間の当事者であれば、たった1件のカスタマーサービス・エラーで済むようなものでも、アルゴリズムが高速に動作すれば1000件ものエラーになってしまう。

企業ができること

 こうした責任問題に対処するには、問題が発生するまで待つのではなく、最初から法的監視を組み込むことが不可欠である。規制環境と企業の事業目標を理解している法務担当者は、プログラムが展開される前にリスクを軽減するよう対処する必要がある。

 しかし、早期の関与だけでは不十分な場合がある。自動化は急速に進化し、それを取り巻く法的環境も同様に変化している。だからこそ、法的監視は継続的に行う必要がある。特にプライバシー規制や消費者保護基準が絶えず変化するテクノロジー主導の時代においては、企業はシステムのパフォーマンスを積極的に監視する法務担当者や法的アドバイザーを必要としている。

 これは、消費者データを収集または処理する企業、自動メッセージング・システムや料金システムを使用する企業、あるいは消費者保護法が異なる法域にまたがって事業を展開する企業に特に当てはまる。これらのカテゴリーに該当する企業にとって、自動化ソフトウェア統合における法的複雑さに対処するためのベスト・プラクティスは次のとおり。

  • 設計プロセスに法務を組み込む:最初から部門横断的なチームを編成。法務担当者がエンジニアと並んで作業することで、システムはより賢明で安全になる。

  • プライバシー影響評価の実施:自動化ツール間でデータがどのように収集、保存、共有されるかを評価。組織はベンダーのコンプライアンスを前提とするのではなく、検証する必要がある。

  • シナリオのシミュレーション:顧客のキャンセル、オプトアウト、デリケートな苦情など、例外事項における自動化システムの動作をテストする。

  • 定期的な監査:自動化に関しては、「設定したら放っておく」という姿勢は避けるべきだ。継続的な監視により、エラーが拡大する前に発見できるからである。

  • 法務チームと技術チームのギャップを埋める:エンジニアは法的課題を理解する必要があり、法務担当者は企業システムの仕組みを実践的に理解する必要がある。自動化がビジネスオペレーションにますます不可欠なものになるにつれ、プログラムのあらゆる行とアルゴリズムのあらゆる決定に法的意識を組み込む必要がある。

 

トピック:人工知能、新興リスク、リスク管理、テクノロジー


*注意事項:この記事は“How Automation and Smart Systems Create Legal Headaches,” Meredith Bobber Strauss, Risk Management Site, May 29, 2025 (https://www.rmmagazine.com/articles/article/2025/05/29/how-automation-and-smart-systems-create-legal-headaches) をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

メレディス・ボバー・ストラウスは、Michelman & Robinson LLPのアソシエイト。
鈴木英夫は、RIMS日本支部の主席研究員。

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