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吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

【Web版】『Risk Management』25年9月号
2025-09-10

Risk Management

【Web特別版】

9月号

2025年9月-10月号Web特別版
INDEX

ERM戦略をどのように最適化するか

ジョン・ログーラ(訳:鈴木英夫)[*]


 近年、企業は大規模な混乱に見舞われており、レジリエンス(回復力)の重要性が改めて認識されている。その結果、エンタープライズリスクマネジメント(ERM)は、コンプライアンス対策という側面から、戦略的優位性へと進化を遂げつつある。ERMは、組織全体にわたる幅広い戦略リスク、オペレーショナルリスク、財務リスク、コンプライアンス関連リスクを構造的かつ体系的に評価・管理するアプローチであり、企業が変動に先手を打つための重要な道具になる。

 急速に進歩するテクノロジー、変化する規制環境、そしてグローバル市場の相互連携の強化に伴い、リスク情報に基づいた積極的な組織文化が今や不可欠である。リスク管理担当者は、以下の7つの要因を通じて、組織のERMアプローチを強化することができる。

組織全体でリスク情報に基づいたマインドセットを醸成せよ

 ERMの根幹は、レジリエンスを構築し、リスクを戦略的成長と整合させることだ。これは、組織のリスクプロファイルを理解し、リスク許容度を戦略目標と整合させるというマインドセットから始まる。

 リスク情報に基づいたマインドセットは、経営トップから組織全体に浸透させる必要がある。取締役会は、組織のセキュリティを確保するためにリスクに基づく議論を行い、経営陣と協力してERMを組織戦略に統合することが必要だ。経営陣は、リスクを認識する文化を醸成し、従業員にリスク管理の重要性を教育し、積極的なリスクの特定を奨励する必要がある。

組織のリスクプロファイルを理解せよ

 効果的なERMは、リスク管理チームが組織の内部および外部のリスクプロファイルを深く理解することから始まる。これは、幅広いステークホルダーからの洞察を集約したリスク評価によって支えられている。多くの場合、監査委員会の支援を受けながら、リスクマネジャーは組織全体からの意見を取り入れた継続的な評価を実施する必要がある。この脅威検出プロセスにより、チームは組織の繁栄を可能にするリスクの緩和策を分析し、実行することができる。

 リスク管理チームは、組織の取締役会と緊密に連携し、市場動向、規制の変化、サプライチェーンの混乱など、組織が直面する最も重大なリスクを取締役会が確実に認識できるようにすることが不可欠だ。業務上の脅威と全体的なリスク環境を理解することで、取締役会は十分な情報に基づいた意思決定を行い、レジリエンス(回復力)を高めることができる。

 リスクマネジャーは、既に実施されているリスク管理戦略についても取締役会に周知徹底する必要がある。この認識により、取締役会の行動と意思決定が継続的なリスク緩和策の取り組みを支え、リスク管理チームを強化する機会を創出することが可能になる。

リスク許容度とリスク選好度を整合せよ

 取締役会とリスク管理チームがリスクプロファイルを理解したら、組織のリスク許容度とリスク選好度を明確化することが重要である。最新の対応計画を策定する前に、取締役会とリスク管理者は、望ましいパフォーマンスレベルを維持するために許容できるリスクレベルについて合意に達することが不可欠だ。

 他の社内関係者にとっても、合意されたリスク許容度とリスク選好度を理解することは同様に重要である。取締役会がすべての意思決定に関与する必要はないが、リスク管理チームやその他のリーダーが取締役会のスタンスを把握し、確立されたリスク許容度レベルに沿った情報に基づいた戦略的意思決定を行う必要がある。

 これらの議論は、組織の強化と連携のための機会として捉えるべきである。リスクとは、プラスとマイナスの両方の潜在的結果を伴う将来の不確実性と定義されるため、企業はリスクのプラス面とマイナス面の両方を管理する必要がある。リスクを、単に回避すべき結果ではなく、プラスの変化をもたらす機会と捉え直すことで、組織は組織の変化を活かすこともできるのだ。

ブラックスワンリスクへ備えよ

 従来のリスク分析は、通常、リスクの影響と発生確率という2つの基準に基づいている。リスク評価では、両方の要因に同等の重みが置かれることがよくあるが、このアプローチは近視眼的になりやすく、最終的には組織の戦略目標の達成を阻害する可能性もある。

 影響と発生可能性を同等に重視すると、ブラックスワン事象(稀ではあるものの、極めて重大な結果をもたらす事象)が軽視されることになる。近年の世界的な危機は、起こりそうにないことも起こり得ること、そしてブラックスワンを無視することはできないことを体感させた。COVID-19パンデミックと2024年のCrowdStrikeの障害は、予見可能でありながら発生確率は低いものの、事業運営に重大な混乱をもたらした事例だ。多くの組織はこれらの事象を潜在的なリスクとして認識していたが、発生可能性が低いと評価したため、準備や軽減策の優先順位が低かった。このアプローチにより、組織はブラックスワン事象への備えができておらず、結果として社内外のステークホルダーに甚大な影響を与えた。

 潜在的なブラックスワンリスクに効果的に対処するには、リスク管理者は確率ベースの思考から影響ベースの計画へと転換し、発生確率が低いように見えても極端な事象に備える必要がある。レジリエンスの高い組織は、最も発生確率の高い事象だけでなく、リスク環境全体を網羅した緊急時対応戦略を策定している。

リスク評価への協働的アプローチを採用せよ

 リスク管理者は、「戦略上の誤り・機会損失・最悪の損失シナリオを回避するために」、リスクを特定・分析・優先順位付けするための「リスク評価を実施する」ことの重要性を理解すべきだ。しかし、従来のリスク評価手法では、すべてのステークホルダーの意見をタイムリーに反映させ、有意義で実用的なデータを収集することがしばしば課題となっていた。ほとんどのリスク評価は、様々なステークホルダーや外部情報源から洞察を得るために、インタビューやアンケートなどの手作業に依存している。このプロセスは煩雑で、ミスが発生しやすく、主に脅威に焦点を当て、機会を見落としてしまう可能性もある。

 協働的な方法論とツールは、これらの課題に対処し、リスク評価プロセスを強化し、組織が積極的にリスクを軽減し、成長機会を発見することを可能にする。リスクの相互関連性が高まるにつれ、それらを個別に管理することは現実的ではない。従来のERM手法では、影響度と発生可能性の基準が用いられることが多く、これらの基準では視点が限定され、リスク許容度と戦略目標が見落とされがちだ。改善された協働的なアプローチは、過去のデータ、業界ベンチマーク、継続的なモニタリングとコミュニケーションを活用することで、包括的な視点を提供する。このアプローチは組織全体のステークホルダーを巻き込むため、新たなリスクの早期発見と効果的な優先順位付けを促進し、レジリエンスを高め、より強固なリスク文化を育むことができる。

テクノロジーを活用した協働ツールを活用せよ

 従来のERM手法に頼って、複数のステークホルダーと最新の知見を活用した協働的なリスク評価を実施することは、困難で、コストと時間がかかる。協働ツールを活用することで、組織のERMアプローチを強化することができる。*)
*訳者注)参考までに:Automated risk assessment toolの紹介サイト(10 Best Automated Risk Assessment Tools for 2025)https://www.flowforma.com/blog/automated-risk-assessment-tools

 テクノロジーベースの協働ツールは、より迅速かつ効率的なリスク評価と高品質なアウトプットを可能にし、リモートコラボレーションを促進することで、より幅広いステークホルダーの参加と多様な視点によるリスクの特定をすることが可能となる。また、これらのツールはリスク情報を匿名で収集できるため、多様な意見の収集を促進し、すべてのステークホルダーに意見を表明することができる。リアルタイムコラボレーションは反復的なタスクを自動化し、チームは成果に集中し、主要なリスクに関するより深い議論とより良い整合性を促進することができる。

強化されたERMアプローチを開発せよ

 強化されたリスク評価には、コラボレーション型の方法論とテクノロジーを活用したツールが不可欠である。協働ツールを効果的に活用することで、リスク評価プロセスとそこから生成されるデータの品質を大幅に向上させ、組織が将来を見据えた計画を継続的に策定できるようになる。

強化されたERMは、以下の3つのフェーズに分けられる:

データ収集:このフェーズでは、リスクの特定から戦略策定へと焦点が移る。組織がどのように成功を測定しているかを検証し、重大な障害を特定する。テクノロジーを活用した評価では、80~100の業界関連リスクをリストアップしたリスク・ユニバース・ツールを活用し、視野を広げ、より豊富なデータを収集する。

リスク分析と優先順位付け:コラボレーション・ソフトウェアは、従業員の連携、リスクの優先順位付け、迅速なコンセンサス構築を支援し、従来のデータ収集期間を短縮する。分析と優先順位付けのフェーズでは、リスク許容度、経営陣の準備態勢、リスク発生速度(risk velocity)を考慮し、影響の大きい事象と必要な対応に重点を置く。

結果と報告:テクノロジー主導の協働ツールは、リスクシナリオを評価し、ステークホルダーの合意形成を促進し、影響を数値化する。これらのツールは報告を自動化し、タイムリーで洞察に富んだ分析を提供することで、対応計画を策定し、戦略的意思決定を導くことができる。

 エンタープライズリスクマネジメントは、失敗を回避することではなく、実現性・俊敏性・洞察力、そして成長を実現するためのものだ。リスクを認識する文化を育み、テクノロジーを活用したコラボレーションツールを活用することで、組織は不確実性を乗り越えるだけでなく、それを戦略的優位性へと転換することができる。

トピック
エンタープライズリスクマネジメント(ERM)、リスクマネジメント

注意事項:この記事は “Optimizing Your Enterprise Risk Management Strategy,” John Rogula | September 12, 2025, Risk Management Site:( https://www.rmmagazine.com/articles/article/2025/09/12/optimizing-your-enterprise-risk-management-strategy)をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。

ジョン・ログーラは、ベーカー・ティリーのリスクアドバイザリー部門のマネージングディレクター。
鈴木英夫はRIMS日本支部主席研究員。

トピック:
新興リスク、保険、リスク管理


注意事項:この記事は、” Reverse Discrimination Claims on the Rise,” Chris Zanchelli , Jim Baffa | July 29, 2025, Risk Management Site,(https://www.rmmagazine.com/articles/article/2025/07/29/reverse-discrimination-claims-on-the-rise)をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。

クリス・ザンチェッリは、バークレー・セレクト社の個人および非営利団体向けD&O、EPL、および受託者向け商品群の責任者。
ジム・バッファは、バークレー・セレクト社の保険金請求担当アシスタントバイスプレジデント。
鈴木英夫はRIMS日本支部主席研究員。

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