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吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

『Risk Management』20年 5月号
2020-05-01

Risk Management

5月号

INDEX

緊迫したサプライチェーン

ラス・バナム[*]

貿易戦争とCOVID-19のパンデミックに挟まれて、グローバル化した製造業のサプライチェーンでのリスク評価とリスク緩和は究極の試練に見舞われている

COVID-19のパンデミックは世界中のあらゆるセクターのビジネスに影響を与えている。実際、3月初旬に経済協力開発機構は、パンデミックにより世界の経済成長見通しが半分になる可能性があると警告した。旅行、ホスピタリティ、輸送など、これまで多くの産業が大きな打撃を受けてきたが、製造業のサプライチェーンへの影響を確認することは困難であった。

需要の低迷は依然として懸念されているが、高度なサプライチェーンリスク管理の実践とバックアップサプライヤーの契約を持つ大手OEMメーカーは、今のところ、COVID-19の影響を供給の観点からは乗り越えることができた。「供給の混乱に最も影響を受けやすいのは、大きなリスク管理部門を持たない小企業、またはアップルやゼネラルモーターズへの供給業者です」と、ハケット・グループの戦略およびビジネス変革実践部門のサプライチェーン・プリンシパルであるジョシュ・ネルソンは述べた。

同社の分析によると、コロナウイルスによるビジネス混乱のリスクが最も高い産業には、電子機器、工具・金属製品、建築資材、多角化した化学製品、および産業機械が含まれる。「大規模な産業コングロマリット、テレコム、自動車、コンピューター周辺機器では、サプライチェーンでの在庫は少ないですが、これらの業界の企業は通常、サプライチェーンのリスクを軽減するための規模と取引先を持っています」と、ネルソン氏は語った。

製品の発送での遅れも懸念材料である。非常に厳しい生産スケジュールと在庫を持つ大規模な製造業者は、製品の出荷をある港から別の地域の港に変更できる取引先を持っている。また、新しい地域からの供給品を調達するための関係も整っている。「小規模な企業は、通常、このようなネットワークを構築していません」と、調査およびコンサルティング会社リスク・プロヘクトの創設者兼CEOであり、保険ブローカー・マーシュのグローバル・サプライチェーン業務の責任者を務めたゲーリー・リンチは述べている。「コロナウイルスが長く引くほど、必要な供給源を調達できなくなるリスクが高まります。あなたは必要なものを得るために競争することになります。しかも、すべての企業が勝つわけではありません。」

それにもかかわらず、一部の専門家は、グローバル・サプライチェーンが順調に進んでいると信じている。「サプライチェーンでの混乱を招く製造業者はありますか。はい、あるでしょう。しかし、それらの多くはすでに、必要な時に補充できるようにするために、中国以外の他の仕入れ先を準備しています」と、サプライチェーン・コンプライアンス・コンサルティング会社のBPEグローバルの社長であるベス・プライドは述べた。

あらゆる角度からの脅威

COVID-19は、製造業のサプライチェーンに対する最も新たな打撃であり、それはすでに近年の自然災害による破壊、壊滅的なサイバー攻撃、および米国と中国の間の2年間の貿易紛争に耐えてきている。

「運用の観点から見ると、企業のサプライチェーンはすでに、物流の混雑から通貨の変動まで、急速に変化するリスクに曝されている非常に複雑なエコシステムです」と、ハケット・グループのアソシエイト・プリンシパルであるサンジヴ・マハジャンは述べる。「コロナウイルスと複雑な貿易と関税の問題が加わることで、それはさらに面倒なものになります。」

米国と中国は、トランプ大統領が昨年課した関税の一部を緩和するフェーズ1の合意に署名したが、貿易戦争はまだ終わっていない。3月、米国商務省は、スパイ行為やテクノロジーの盗難のリスクをもたらすと思われる中国企業への米国の販売をさらに制限する規制を提案し、ウォールストリート・ジャーナルによれば、トランプ政権の当局者は「さらなる国家安全保障の懸念を喚起することにより、追加での貿易制限を進めようとしている。」

多くの製造業者にとっては、貿易紛争によって、すでに中国で長年にわたって築いてきた製造とサプライヤーとのパートナーシップを維持するか、それともこれらの事業と関係性を他の場所に移すかを決定することを余儀なくされている。通常、これには、他の国の「上陸費用」-貿易関連関税、税金、輸入関税、保険、および付加価値税の合計額-を検討することも含まれる。コロナウイルスの前例のない影響は、政府がこの病気の蔓延を阻止するために経済全体を本質的に閉鎖したので、こうした検討作業をより複雑にした。3月の初めに、雑誌『フォーブス』は、このパンデミックが世界の主要メーカーとしての中国の30年にわたる地位を終わらせるかもしれない、とさえ予測した。

関税の不確実性

COVID-19は当然ながら米国と中国の間の貿易戦争を後押ししたが、多くの企業は不確実な関税環境に依然として困惑している。「私は、北米、南米、ヨーロッパ、インド、中国で事業を展開している、ダンプトラックなどの低燃費車用のスチールホイールを製造している米国のクライアントを持っています」と、国際的な公会計、コンサルティング、テクノロジーのクロウLLP社のコンサルティングパートナーであるマイク・ヴァーニーは述べた。「彼らは、中国での製造を継続するだけの価値があるのか、それともそれを移転すべきなのかを判断するのに苦労しています」。同社の計画を複雑にしているのは、フェーズ1合意の前に生じた、堂々巡りの関税議論が再び繰り返されるのではないかという脅威である。

他の企業も同様に確信が持てない状況である。「現政権以前は、関税は単なる輸送業務レベルの一つの費用でした」とプライドは述べる。「その後、トランプ大統領は貿易戦争を開始した。多くの企業が初めて、輸入した製品がどのように分類されているかを理解する必要があることを知ったのです。」

この分類は、関税分類表(Harmonized Tariff Schedule(HTS))によって決定される。これは米国政府が特定の製品の説明とそれに関連する税金に基づいて、当該輸入品の関税を計算するために使用するデータベースである。「クライアントの50%が私たちに電話して来て、『HTSとは何ですか、なぜこうした罰金に見舞われるのですか』と尋ねます」と、プライドは言う。「理由は、彼らが誤って製品を分類していたからです。それは大きな目覚ましコールでした。」

罰金の経済的影響に悩まされた多くの企業は、代替供給先を評価したり、生産を中国から移転したりするために努力した。「大手自動車会社、半導体会社、重機会社がサプライチェーンの一部をベトナム、カンボジア、メキシコなどの場所に移動させているのがわかります」とクロウ社のグローバル税関担当業務執行取締役ピート・メントは述べる。「特にメキシコは、サプライチェーンを大幅に短縮し、納期を延ばし、費用を節約する機会を提供します。」

それでも、特に特定のセクターの複雑さを考えると、11分の1の時間に供給を変更することは「簡単な決定ではありません」とプライドは述べる。「ほとんどの企業ではサプライチェーンを動かすには、最低6か月かかります。製薬会社の場合は、さらに2年間の追加になります。」

より良い決定を推進する

リスク管理の専門家は、過去の災害から学んだ教訓を利用して、次の災害をより適切に管理する。しかし、サプライチェーンはよりスリムになり続けており、ジャストインタイムの生産需要に対応するために適切な量の在庫だけしか手元に置かない。しかも、サプライチェーンはより複雑になっている。

「あらゆる場所に1次、2次、3次供給者を配置する、西部開拓時代みたいです」。デロイト&トウシュLLPのパートナーおよび米国と米国進出企業および第三者保険のリーダーであるダン・キンセラは、次のように述べる。「彼らがうまく機能しているかどうかを把握することは、ますます不可能になっています。だれか一人が責任を負うことではなく、皆が責任を負わなければなりません。全社的リスク管理(ERM)が必要であるとしたら、これこそがそれです。」

ONセミコンダクター社のような企業は、全社的リスク管理(ERM)戦略を採用し、さまざまな脅威が顕在化する前に計画を立てている。コロナウイルスが中国を襲ったとき、この会社はすでに準備ができていた。30の工場のうち3つが中国国内にある。3月中旬の時点では、それらの施設は最高の速度で運営されていました。「サプライチェーンの回復力は、私たちがここで長い間取り組んできたものです」と、同社のグローバル全社的リスク管理担当シニアディレクターであるマイケル・ズラウは述べる。

ONセミコンダクターのERMプログラムは、数十年先に発生する可能性のある潜在的なリスクに長い間焦点を当ててきた。フォーチュン500社企業は、2011年日本での東人大地震と津波、タイの洪水、2003年のSARSや2009年の豚インフルエンザなど、サプライチェーンに影響を与える可能性のあるさまざまな出来事を経験した。

「これらの経験は、事業継続性を維持するために何をすべきか、何をすべきでないかについて私たちに教えてくれました」とズラウは言う。「私たちはこれらの原則を一連の卓上演習に組み込んで、危機的な事態が発生したときに備えられるようにしています。」

ズラウのERMグループはさまざまなサプライチェーン・リスクシナリオを想定しており、「次に、そのリスクから物事を現在までに戻してみます」と彼は言う。「そうした事態が将来発生した場合、私たちは最初に起こりうるであろう中間点ポイント(最終的なリスクが生じる前の段階で徐々に起こること)を特定しようとます。」

これらのポイントは、起こっているリスク・イベントへとつながる先行的な指標である。「それらはシナリオが起こりはじめる変化点に近づいていることを、私たちが知るための代替指標です」と彼は言う。「それらのポイントを追跡することで、リスク・イベントが発生したときには、今、何をするべきなのか、という計画を立てることができるのです。」

パンデミック(疫病の大流行)とエピデミック(疫病の流行)が、彼らのレーダー画面でサプライチェーンのリスク・イベントの一種として現れたので、同社は特定のアクション・ステップを準備できたのである。すべての工場は、急速に変化する可能性のある需要信号に対応するように管理されている。「リスク・イベントがあれば、ある工場から別のどの工場に生産能力を割り当てることができるかを決定します」と彼は説明する。「コロナウイルスに関しては、企業が祝うためにいずれにしろ工場を閉鎖する中国の旧正月の頃であったという意味で、私たちは幸運でした。私たちはすでにその休暇のために工場を閉じることを計画していたため、ウイルスによって休暇期間を延長したことは、私たちにとっては大きな変化ではありませんでした。」

実際には世界の半導体需要の減少により、ONセミコンダクターおよび他の部品メーカーは、可能な供給量からすると、生産の遅れを吸収できる安心を得たのであった。これは、2011年の福島の危機やタイの洪水の際には当てはまらなかった。その時は、OEM商品の需要サイクルが過熱していたので、十分な速度で適切な供給先を見つけることができなかったのである。

***** コラム *****

COVID-19パンデミックの中でサプライチェーンの混乱を回避

コロナウイルスが世界中で増殖し続ける中、QBE ノース・アメリカ社の主席ロス管理コンサルタントであるロバート・タルは、サプライチェーンの混乱を制御するためにリスク専門家が取るべきいくつかの重要なステップを、次のように提案している。

被災地に出入りする従業員がいる場合は、職場で欠勤者が増える可能性に備え、重要な業務を継続する計画を立てる。

生産能力に対するコロナウイルスの予想される影響を評価するために、すべての国のサプライヤーに連絡する。

政府からの公衆衛生の最新情報を毎日監視して、最新の動向を常に把握する。

会社の出張規定を再評価し、すべての従業員が緊急医療と援助を求めるときに連絡する相手を知っているようにする。

組織の事業継続性計画と偶発的な事業中断保険の適用範囲を確認および更新して、最適なリスク軽減とリスク移転を確保する。

地域レベルでは、職場の保全スタッフは、頻繁に触れるものの表面を定期的に清掃して、ウイルス、細菌、その他の病気の蔓延を制御する必要がある。「実際に感染するかもしれない従業員に備えて、今すぐ手続き規則を作成すべきです」、とタルは言う。

COVID-19感染の可能性を示唆する急性呼吸器疾患を患っていると思われる従業員は、上司に自分の状態を通知し、医療専門家に助言を求めるように助言されるべきである。感染した従業員と最近接触した労働者も、その感染拡大を防ぐためにコロナウイルスを検査する必要がある。

*************

また、ONセミコンダクターがコロナウイルスの影響に効果的に対処するときに役立つのは、さまざまな需給シナリオの影響を工場ごとに評価するように構成されたサプライチェーン・ソフトウェアを使用しているからである。これは、各工場の製造アジェンダのスケジュールを導くのに役立ちます、とズラウは言う。

幅広いサプライチェーンの脅威シナリオを検討することは、情報に基づいた意思決定を行うための全体的なリスクを分析する上で重要である。「我々は、上陸コストを削減するために製造機能を移転したのですが、新しい生産場所での列車の脱線リスクを評価し損ねた事例を見ています」。ウィリス・タワーズ・ワトソン社の海洋リスクコンサルティングのチームリーダーを務めるチャールズ・マカムモン氏は、次のように述べる。「ジャストインタイムの生産環境で、列車が企業にとって重要な製品の部品を運んでいる場合、すべてが一度に停止し、混乱が起こります。」

リスク・シナリオとリスク・モデリングの演習を活用することで、製造業者は柔軟性と回復力をサプライチェーンに統合でき、中国からすべての生産と供給品を移転するなどの主要な決定を行う必要性を極小化できる。マハジャンは、中国でスピーカーを全量製造していたが、現在、メキシコで一時的にいくつかのスピーカー部品を製造しているクライアントの成功事例を引用する。「それにより、彼らは中国のサプライヤーとの関係を維持することができ、将来、製品全体を再び中国で製造する余裕が生まれています」と、彼は言う。

次の危機に向けて準備する

COVID-19が驚くべき速度で人々に感染し続けているため、パンデミックのリスクに最も備えができている企業は、サプライチェーンへの影響を緩和することでは最適のポジションにいる。しかも同時に、そうした企業はコロナウイルスから新しい教訓を学んでいる。

「このイベントの継続さは、私のキャリアでこれまでに出会った他のどのイベントとも異なります」とリンチは語る。「東日本大震災とそれ以前の伝染病でさえも、他のものからは独立した急激な攻撃でした。サプライチェーン・リスクマネージャーは、商品の流れだけでなく、売掛金、キャッシュフロー、負債、および人的資産への影響も考慮して、エコノミストが考えるように考える必要があることは明らかです。重要なスキルセットを持つ労働者を失った場合、その専門知識を持つ人をすぐに補充出来ますか」。

リスク専門家は、将来に備えて計画するために、現在および潜在的なリスクの状況を広く見通さなければならない。「私は、地政学的問題、社会的不安定さ、自然災害、パンデミック、通貨変動、経済的な脆弱さなど、複合的なリスクに基づいて、各地域をスコアリングすることから始めるように、企業にアドバイスします」とネルソンは語る。「これを定期的に行うことで、変化にすばやく対応し、供給元を変更したり、在庫をあちこちで持ったりすることを通して、全体的なリスクを軽減できます」。


注意事項:本翻訳は、“Supply Chain under Strain, Risk Management, May, 2020 pp.20-24をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。なお、文章中は敬称略です。

 フリーの財務関連ジャーナリスト

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