Risk Management
6月号
- 嵐が襲ってくる前に保険契約条件を見直す
- バージニア州の新データ保護法を検討する
- 夏休みキャンプでのCOVID-19リスクと戦う
- 組織における体系的な人種差別を撤廃する
- ニューヨーク州の新しい合法大麻ビジネスのリスク
- 水害検知にIoTセンサーを用いる
- 勤務時間:職場復帰時に従業員ニーズを評価する
勤務時間: 職場復帰時に従業員ニーズを評価する
ジム・ダーキン
世界中の企業が物理的なオフィスを閉鎖し、多くの従業員をリモートワークにシフトさせるための戦略とプロセスを迅速に開発し、実行しなければならないようになってから1年以上が経過した。予防接種を受ける人が増えるにつれて感染率が低下し、地域の規制が解除されるにつれて、役員や人事部門はいつどの従業員を職場に戻すかを決めるという課題に直面するようになった。
生産性や従業員の選好を誘導するのは難しい。雇用主は自宅で前向きに働いている従業員を職場に戻すことで、または逆に自宅で働くことに苦労している従業員に必要以上に自宅労働を強いることで、優秀な従業員を失うリスクを望んでいない。対面での協働、ミーティング、イベントといった機会を最大限に生かすためには、適切なバランスを取ることが必須となる。
対人活動に復帰する見通しは、従業員全体からすると、相反する感情を引き起こす。不安を感じている人もいれば、早く復帰したい人も、また両方の入り混じった感情を持っている人もいる。米国心理学会の2021年3月の研究では、成人の半数がパンデミック後に人と人との交流に戻ることに居心地の悪さを感じると報告しており、これは初期段階のCOVID-19ワクチンを接種していた(当然のことながら、ごく少数の)回答者の間でも同じであった。
パンデミックが精神衛生に悪影響を及ぼしたことは明らかであり、多くの人々が仕事に時間と集中力を費やしていることを考慮すると、仕事環境での孤立と混乱が一定の影響を及ぼしたことは疑いの余地がない。しかし、新たに導入された仕事手順での混乱、COVID-19感染による継続的なリスクに関する懸念、異なる家庭環境やそこでの責任、仕事と社会生活に対する個人的な選好は、いずれも職場へ復帰するか、それともリモートで働き続けるかという判断に対して、非常に異なる感情をもたらす潜在的な要因である。この課題に対処するには、同じように微妙で個別的なアプローチが必要となる。
従業員感情を分別する
パンデミックによる都市閉鎖に入って1カ月後、マーテック・グループは多様な産業、年齢構成、勤続年数から成る1,200人以上の個人を対象に調査を行った。その結果、リモートで働く従業員は4つのカテゴリー、つまり健闘している、希望が持てる、やる気が失せた、追い込まれた従業員に分類されることが判明した。早くも、従業員のうち上手くやっている者はわずか16%で、59%はやる気が失せたり、追い込まれたりしていた。
リモートで働いた社員一人ひとりの経験はユニークであり、個人別に心身の健康に与える影響を理解することは、従業員が職場に戻る準備ができているかどうかを会社が判断するのに役立つ。例えば、学校への対応に追われ、家庭で働くことにストレスを感じている親もいる。オフィスでの仕事に集中できるように、家から出たいと思うかもしれない。また、ワーク・ライフ・バランスの改善を評価し、職場に戻ることを恐れている人もいる。個人の生産性と仕事の満足度を最大化し、従業員の離職率を減少させるためには、従業員が前に進むために適切なバランスをとることが肝要となる。
従業員一人ひとりのリモートワーク経験を分析することで各類型内の共通点が明らかになり、雇用主が職場復帰計画を立てる際に役立つことができる。
上手くやっている従業員: 「上手くやっている」者は16%にすぎない。圧倒的に女性が多く(72%)、若年層に偏っており、自分一人でできる内向きな仕事であることが多い。上手くやっている従業員の約40%が新入社員であり、通勤しないことに感謝する声が多く聞かれた。COVID-19禍中、在宅勤務に対して非常に肯定的な感情を持ち、全般的に会社の対応に満足している。経営陣はこのグループに対しては、通常の職場業務に戻るように求めるときに、彼らがどのように行動するのかを判断する必要がある。
希望が持てる従業員: ここでも女性が支配的で(62%)、若年層に偏っていて、4分の1の従業員が「希望が持てる」と認識される。このグループでは内向きな仕事と人との交流を必要とする外向きな仕事が混在し、役割でも広い範囲にわたっている。新入社員で31%、上級職で27%となっている。この類型に入る者は企業のCOVID危機管理に対して最も肯定的な感情を持っており、企業満足度が最も高い。全般的に自宅で働くことに満足しているが孤立感や孤独感もあり、同僚やオフィスで働くことの社会的側面がないことに寂しさを感じている。
やる気を失せた従業員: 男女がほぼ均等な構成で、27%の社員が「やる気を失せた」者と認識される。35~45歳の年齢層が多く、管理職以上の役職が大半を占めている。最も外向きな仕事を受け持つグループで、通勤することを嫌うが、オフィスでの社会的な交流がないことを寂しく感じている。より上級の地位を占めるこのグループはCOVID-19で辛い思いをしていて、その外向きな仕事と高いストレスレベルがリモートでの作業に対する否定的な感情につながっている。企業の対応は比較的前向きに受けとめているが、すべての階層にとって現状がどのような影響を与えているのかを示している。
追い込まれた従業員: 全従業員の32%を占め、4つのグループの中で最大である。このグループは男性と女性の両方、内向きな仕事と外向きな仕事の両方から構成されており、より上位の職位にある者が占める傾向があり、35%が管理職として働いている。オフィスの社会的側面だけでなく、仕事での組織的な体制のなさに寂しさを感じている。このグループは全体的に、特に会社のCOVID-19への対応に対して最もマイナスな感情をもっている。企業に対する満足度、メンタルヘルスでの評価が最も低く、オフィスでの社会的なつながりを最も欲している。オンラインでの社会的なイベントはすべてを解決するわけではないが、それでもこの類型の人たちの心もちを高めることができる。
再開を計画する
企業が再開計画の枠組みを構築する際には、従業員の多様な感情や心情を考慮することが重要である。解決策は従業員が希望すれば職場に戻れるという選択肢を与えるといったような、簡単なものではないかもしれない。従業員が感じている会社やチームの文化といわれるものは、もしかすると、再び職場で仕事をすることをためらう従業員にとっては強制されているという感情を、または結びつきが欲しいと思う従業員にとっては孤立感や疎外感を生じさせるかもしれない。
従業員に任せたり、白紙状態の再開政策を打ち出したりするのではなく、企業は成功を最大限に引き出すことができる多層的な計画を立てる必要がある。まずは、組織内の従業員を類型化することから始める。それに基づいて、企業は以下のような対処計画を策定する必要がある。
• リモートで働き続ける従業員にとって相応しい文化を醸成し、会社に順応させる
• 職場復帰を希望するが、学校や育児でリモートを強いられている親を支援する
• 職場復帰を希望するが、チームは復帰できない従業員のために選択肢を用意し、支援する
• リモートワークを継続させる計画と生産性低下に対処するための方針を立てる(例えば、リモートで働いている従業員が業績を落としたときには、オフィスに戻らなければならないか)
リーダーはまず自分たちの偏見を明らかにして、自分たちの感情が会社の方針にどのような影響を与えるかを認識することから始めるべきである。例えば、子供がいて家庭での時間を楽しんだ役員は、仕事と生活の調和がとれずに長時間働いている独身の役員や、従業員に仕事をさせることに大きなストレスを経験した役員とは、職場復帰に関してまったく異なった感情をもつ。個人の認識が会社の方針に影響することを認識することによって、開かれた心構えで会議につき、同僚や従業員の感情をよりよく理解できるようになる。
次のステップは調査を実施して、従業員の経験に合致しているかどうかを判断することである。マーテック・グループの研究によると、従業員のリモートワーク満足度は企業での勤続年数と直接的に相関している。パンデミック以前は、上位階層にいる管理職は下位の従業員よりもメンタルヘルス、仕事の満足度、仕事へのモチベーション、会社への満足度が高かった。しかし、従業員の満足度やモチベーションは全般的に低下しているものの、上層部の従業員のほうが低下幅は大きく、彼らにとっては職場復帰の重要性が高まっている可能性がある。さらに、中間管理職は在宅勤務経験に対する満足度が最も低い。これは、彼らの仕事が他の人との関係を必要とする特質を持つ傾向があり、職場での社会的側面を失ったことに寂しさを感じていることに関連している。
こうした作業は会社が職場復帰のために最善の計画を立案するための基盤を与える。この基盤の上に、従業員の選好を調査して計画にフィードバックすることで、より多くの洞察が得られるだろう。回答を平均値と比較する。例えば調査の結果、オフィスに戻ることに不安を感じる中間管理職がリモートワークを好むと言った場合、会社は従業員と話し合ってその理由を知ることができる。おそらく、彼または彼女は子供の面倒を見なければならず、より柔軟な時間の使い方を必要とするのであろう。こうした話し合いは穏やかに、かつオープンに行うように注意を払う。個人の理由には保護すべき可能性のある深い感情、個人的状況、または個人情報が含まれることがあるからである。
一般的に、オフィスを再開することで従業員はパンデミック時には不可能であった、あるいは容易ではなかった通常の職場活動に復帰することができる。例えば電子メール、テキスト、ビデオチャットでアイデアを説明しようとするのではなく、パーティションを越えて素早くブレーンストーミングすることができる。しかし、職場復帰のための万能な計画は存在しない。多くの企業や従業員がリモートで働いているときには柔軟性を保ち、常に対応しなければならなかったように、成功させるためには詳細な計画と継続的な調整が必要となる。従業員の感情を理解して再開計画の土台とすることが、最終的には会社が対面職場への復帰に成功するか失敗するかの決め手になる。
注意事項:翻訳は“Office Hours:Assessing Employee Needs When Returning to the Workplace”, Risk Management, June, 2021, pp19-21. をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
- リモートワーカーの安全を確保する
- 規制当局との信頼構築
- ほとんどの米国企業はワクチン接種を求める
- パンデミックへの対応がリスク意識を喚起する
- 61%の企業がランサムウェア攻撃を受ける
- COSO ERMフレームワークを用いてパンデミック危機から前進する
- 職場復帰コミュニケーション計画を成功させるための9つのヒント
職場復帰コミュニケーション計画を成功させるための9つのヒント
リンダ・トーマス・ブルックス
世界保健機関がCOVID-19のパンデミックを正式に宣言してから1年以上が経過し、リモートワークが何百万人もの人々の標準となった。ワクチンが届き、普及が成功し続け、トンネルの終わりに明るい光が見えてくるかもしれないという多くの人々の希望を受けて、多くの企業は現在、可能な再開シナリオとリモートワーク戦略をより綿密に検討している。
一部の企業、特に大規模な組織は100%リモート方針を発表している。フレックスジョブ社によれば、Dドロップボックスはすべての従業員が自宅で働き続けることができると発表した。ツイッターでは従業員は無期限に自宅で働くことができ、フェイスブックでは従業員の半数までが永続的にリモートで働くことができる。
あらゆる規模や業界の組織は職位や責任にかかわらず、実質的にすべての従業員に影響を与えるさまざまな肉体的・感情的な問題を含む意思決定に直面することになる。その結果、包括的なコミュニケーション計画がこのプロセスを導くための不可欠なツールとなる。以下の9つのヒントは、再開の複雑さに備えるために、リーダーシップから現場の労働者に至るまでのすべての人を支援するためのものである。
1. 専門的であると同時に、個人的な配慮にも必ず焦点を当てる。この1年間、人々の労働日の構造と環境は大きく変化し、オフィスへ再び戻るためのコミュニケーション計画は、従業員の福利を最前線と中心に置かなければならない。5,000人以上の従業員を対象とした最近のガートナーの調査では、29%がCOVID-19のパンデミックのためにうつ状態に陥ったと報告している。また、クオリティックス社とSAP社の2700人以上の従業員を対象とした世界的な研究では、67%の人がより高いストレス、57%がより大きな不安、そして53%が感情的に疲労していると回答した。メッセージを作成し、配信する際には、それが単なるロジスティクスに関することではなく、全員の思考や感情の中にあるものにも対処しなければならない。
2. 閉鎖空間で計画は作成できない。戦略とメッセージを策定するためにチームを結集する場合、プロセス全体にコミュニケーション担当役員が関与していることを確保する。状況は絶え間なく変化するので、ニュースや勧告は頻繁に更新され、組織内外の関係者に対して統一されたメッセージを伝えることが重要である。
3. パンデミックでは過剰なコミュニケーションは存在しない。従業員、クライアント、顧客、その他の視聴者がオフィスへの復帰計画について聞くことが多ければ多いほど、彼らはプロセス全体の中に含まれていると感じる。
4. フィードバックを促す。上記のヒントからの帰結として、人々が意見、悩み、提案を表明することを奨励することが重要であり、そのことが、確実に人々が意見を聞くことに役立つ。そのひとつの方法として、社員の心情を把握するための社内調査があり、匿名だと気持ちを表現しやすい人もいる。この結果は、コミュニケーション部門に貴重な情報を提供し、継続的なメッセージ伝達の工夫につながる。
5. 状況が異なれば、考え方も異なりうる。全国各地にわたるときには、従業員の通勤や職場環境との関わり方には大きな違いがある。例えば、都市環境にいる人々は公共交通機関を混雑させることになる一方で、都市以外の人々はより個人的で、より安全に自動車に頼ることができる。ワクチンの利用可能性は、地域によっても集団によっても大きく異なる。いずれにせよ、従業員へのコミュニケーションは「一つのサイズですべて済ます」わけにはいかないし、変わることない計画を作成することはできないことに留意すべきである。状況と優先順位は流動的であり、コミュニケーション計画も流動的でなければならない。
6. 安全第一。人々が復帰するオフィスは、2020年に去った時のオフィスではないし、そうあってはならない。人々は引き続き警戒し、恐れており、コミュニケーション計画には、従業員が身体的に安全な仕事環境にいられるよう注意を払っていることを確認できる重要なメッセージが含まれている必要がある。この情報は、実際の作業空間だけでなく、エレベーターのガイドラインや訪問者への手順など、オフィスビルで取り扱われる関連する手続きも反映している必要がある。
7. ハイブリッドは存在し続ける。最近のPwCのリモートワーク調査では、雇用者がリモートワークへの転換に成功したと83%の組織が考えていて、55%の従業員がパンデミックの心配が軽減されるので、週に3日以上リモートで働くことを望んでいることが明らかになった。「古い常態」に戻るのではなく、この新しい現実を反映する社内外のコミュニケーションが必要となる。
スポーツで譬えてみよう。あなたは個人スポーツそれとも団体スポーツをしているのか。すべての組織は、自宅環境での仕事で達成すべき個人の生産性だけでなく、公式・非公式な協働が重要となるチーム内やチーム間のワークフローも考慮しなければならない。どんな組合せが最も合理的であるかが判明したら、コミュニケーション・チームは従業員に対して、最善のパフォーマンスを発揮できるように決定されたことを知らせるべきである。また、生産性や従業員満足度の測定やコミュニケーションの仕方は、新しい仕事のやり方に合わせる必要があることにも留意する。
8. メディアが何を告げるか。ニュースの中で語られる傾向に細心の注意を払い、正確な情報と誤りや不正確な情報を区別できる方法を確実に知っておくことは、自社では何を、どのように、いつ伝達するかを定式化するのに非常に役立つ。
9. 透明性、透明性、そして透明性。これはコミュニケーションのすべてのプロセスで守らなければならない。仮にメッセージや会話が正直さ、正確さ、思いやりを反映していないとしたら、意味と信頼は失われる。
職場復帰時のコミュニケーション計画の大きな目標は、従業員の安全を確保するために各段階でできることがすべてなされたことで、従業員が安心することである。また、どのように見えたとしても、職場復帰の過程を通して、従業員の視点、ニーズ、関心事を考慮に入れた計画を立てていることを従業員が確認できることも不可欠である。このような困難な時代には、十分に考え抜かれたコミュニケーション計画が、すべての従業員が健全で生産的な未来に向かうための準備を整えるのに役立つ。
注意事項:翻訳は“9 Tips for a Successful Return-to-Work Communications Plan”, Risk
Management, May, 2021, RIMS Risk Management Site(https://www.rmmagazine.com/articles/article/2021/06/04/9-tips-for-a-successful-return-to-work-communications-plan). をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。
- 【Web特別版】非公開会社の会社役員賠償責任保険での主な留意点