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吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

『Risk Management』21年 11月号
2021-11-01

Risk Management

11月号

INDEX

海運リスクが世界のサプライチェーンに緊張をもたらす 

アンドリュー・キンゼイ船長

国際海運業は国際貿易全体の約90%を運ぶ役割を担っており、パンデミックの初期に経験した急激な落ち込みから回復している。荷主はこれまで以上に忙しくなっているが、この業界の世界的な性格と余力のないことから、ある地域での問題がやがて世界中に波及効果を及ぼす可能性がある。例えば、需要の変動、輸送能力の制約、COVID-19の継続的な影響など、現在の多くの問題はサプライチェーンを混乱させている港湾での大渋滞や貨物輸送の障害を引き起こしている。海運業を営む企業や、サプライチェーンの中で海運業に依存している多くの企業は、これらのリスクが自社の事業に与える影響を認識しておく必要がある。

乗組員交替の危機に直面する

世界中の船舶で、乗組員交替の危機が船員の福利厚生や世界のサプライチェーンに大きな影響を与えている。国際海事機関(IMO)によると、いつの日でも、100万人近くの船員が約6万隻の大型貨物船で働いている。安全な船舶運航のためには、タイムリーな乗組員の交替が不可欠であり、長時間船内で過ごす船員は、精神衛生上の問題、疲労、倦怠感、不安および精神的ストレスなどの危険にさらされている。

しかし、パンデミックに関連した渡航や国境の制限、国際便の飛行停止拡大、そしてワクチンの必要性が船舶運航者の乗組員交替実施能力に大きな影響を与えている。2020年3月から8月の間に、通常の乗組員交替の25%しか実施できなかった。

2021年7月時点で、推定25万人の船員が、本国に送還されずに契約期間を過ぎても働いている状態で商業用船舶に残っている。同数の船員が、彼らの代わりに船に加わることを緊急に必要としている。海運業界では、船員の退船に向けたグローバルな協働努力や、労働時間の調整など乗組員に一定の休息を与えるための新たな対策が必要である。

多くの船員が船から離れられない状況にある中、次世代の船員にも深刻な懸念がある。海事産業では労働力の高齢化が長年の課題となっていたが、訓練と開発に影響を与えるパンデミックの結果として、今では危機的なレベルに達している。景気や国際貿易が回復し船舶需要が急増する中、船員には大きな負担がかかっており、世界の海運業界がこのまま船員の維持・確保に苦労し続けると、船員不足に陥る可能性がある。

世界的なワクチン接種プログラムは、船員交替の危機を和らげるのに役立つかもしれないが、海運の国際性によって状況は複雑になっている。2021年3月、国際海運会議は、船員がワクチン接種できないことで海運業界が「法的な地雷原」に置かれており、出航のキャンセルや港の遅延でサプライチェーンを混乱させる可能性があると警告した。

入港前の条件として全乗組員にワクチン接種を要求する国があるとの報告から、COVID-19のワクチン接種は、すぐに海上での労働強制の原因となる可能性がある。ところが現在、世界の海事労働者の半数以上は発展途上国から調達されており、ワクチン接種には何年もかかる可能性がある。また、船会社による船員へのCOVID-19ワクチン接種は、強制接種やプライバシーを含めた賠償責任や保険の問題を引き起こす可能性がある。とはいえ、船員へのワクチン接種義務化の問題はCOVID以前から存在しており、商船員の接種記録は業界では目新しいものではない。

サプライチェーンのさらなる脆弱性

船員危機だけでなく、世界の海運業界が直面するリスクもある。2021年3月、コンテナ船エバー・ギブンによるスエズ運河の封鎖は、海上輸送に決定的に依存している世界的なサプライチェーンに衝撃を与えた。世界で最も密な航路の1つが6日間にわたって閉鎖されたことで、数百隻もの船舶がバックアップし、さらに多くの船舶が航路変更や港での待機を余儀なくされた。その影響は数ヶ月に及び、小売業者の商品不足、メーカーのサプライチェーンでの遅延が発生し、船会社やコンテナ港では物流の滞留につながった。

この事故は海上サプライチェーンに潜在する深刻な脆弱性を露呈させ、主要な港や船舶航路などの交通の難所から世界的な混乱を引き起こす可能性を示した。この事件は、貿易紛争、異常気象、パンデミックによる混乱、コンテナ貨物や商品に対する需要の急増などにより、すでに発生していた遅延や混乱をさらに悪化させた。

2020年末の時点で、すでに多くのコンテナ船が世界の最も忙しい港のいくつかで、順番待ちの行列を作ることを余儀なくされており、その結果、船会社は出航を取りやめたり、船を迂回させたりしていた。この問題は、需要の増加と港湾の遅延により、アジアにおける船舶用コンテナの不足によって悪化した。

2021年8月、中国の寧波・舟山で作業員がCOVID-19の陽性反応を示した後、世界で最も忙しい貨物港の一つが一部閉鎖された。この事件は、世界的なパンデミックとの戦いが続く中、世界の海運業への継続的圧力がかかっていることをさらに浮き彫りにした。当局は、港が再開され、作業員や水先案内人が隔離から戻ってきてから、通常業務に復帰するまでに最大60日かかると見積もっていた。

このような遅延や混乱に起因する潜在的な請求シナリオには、コンテナ貨物中の冷蔵貨物の腐敗、大量貨物輸送により喫水線が高水位で停泊時間が長くなることからの船体関連請求、一次保管場所での受け入れが目一杯である場合での、嵐による船荷の揺れ動きによっての浸水などが含まれる。

さらに、2020年8月にレバノンのベイルート港で発生した爆発事故は、海運業界全体で増え続けている最近の事件リストに追加された。この災害が危険物の保管に関する懸念を浮き彫りにした。爆発事故を起こした硝酸アンモニウムは広く使用されている化学物質であり、世界中の港や倉庫で見かけることができる。しかし、硝酸アンモニウムは可燃物から離して保管し、人口集中地域や重要サービス拠点から離れて保管されるべきである。残念ながら、ベイルートではそれがなされなかったため、数百人の死者、広範囲にわたる物的損害、少なくとも3隻の船舶の全損という結果になった。

2015年の中国・天津での爆発事故と同様に、ベイルートでの悲劇もまた大規模港湾におけるリスクの集中を浮き彫りにした。ベイルートは中東への主要な玄関口であり、レバノンの対外貿易の約3分の2を処理している。一方、EU、米国、中国はこれら港を利用して、四半期ごとに何十億ドルもの貿易の流れを作っている。

多忙な港におけるこのような出来事は大きな影響をもたらし、サプライチェーンの弱いつながりを悪化させる可能性がある。今後、これらの出来事は、より強固で多様性のあるサプライチェーンを構築し、危険な箇所をより深く理解することが重要であることを示している。

保険金請求をとりまく環境

COVID-19による海上保険請求への影響は、これまでのところ限定的な影響にとどまっている。船体保険では直接的な影響はほとんど見られず、船舶損害賠償保険会社ではクルーズ船からの旅客賠償請求に直面することが予想され、貨物保険会社では腐敗しやすい生鮮食品での請求が増加している。パンデミックの状況と海運需要の急増により造船所は圧力を受け、造船所の空きスペースが不足している。それに加えて、船体および機械関連請求のコストは、予備部品の製造および配送の遅れにより増加している。

他の多くの分野と同様に、パンデミックは海運業界にもリスクの高い環境をもたらし、極めて困難な状況での運営を余儀なくされている。当面の間、企業は港でのCOVID-19対策、乗組員の疲労、海上のサプライチェーンの混乱、海運需要の全般的な急増がリスク遭遇可能性に影響を与え、世界中の企業や消費者に影響を与え続けることを認識すべきである。

トピックス

事業中断、COVID-19、経済、新興リスク、健康と厚生、保険、国際、パンデミック、安全、サプライチェーン

 


注意事項:

本翻訳は“Shipping Risks Strain Global Supply Chains”, Risk Management, November, 2021, pp.18-19 をRIMS日本支部が翻訳したものです。原文と和訳に相違があるときには、原文を優先します。本文中は敬称略です。

アンドリュー・キンゼイ船長はアリアンツ・グローバル・コーポレート&スペシャリティ社上級海事リスクコンサルタント。

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